Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア
2026年9月15日

2026 IWBF 車いすバスケットボール世界選手権大会

チームをけん引する北田千尋、引退覚悟からたどり着いた世界の舞台

フランス戦でシュートを放つ北田千尋。全5試合でトップスコアラーとしてチームをけん引した | チームをけん引する北田千尋、引退覚悟からたどり着いた世界の舞台|2026 IWBF 車いすバスケットボール世界選手権大会 | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

フランス戦でシュートを放つ北田千尋。全5試合でトップスコアラーとしてチームをけん引した

9月9日(現地時間)に開幕した車いすバスケットボール世界選手権は、大会6日目の14日には女子のグループBの全日程が終了。2大会連続出場の女子日本代表は2勝3敗とし、グループ4位で前回大会に続いて準々決勝進出を決めた。先頭に立ってけん引したのは、全5試合でチームのトップスコアラーとなり、そのうち4試合で20得点以上をマークするという活躍を見せた北田千尋(4.5)だ。

土壇場での逆転勝利をもたらした北田のシュート力

「今、自分に対して一切の疑念はありません。自分のことを信じ切っているし、それだけのことをやってきたと思っているので。今はボールが友だち状態です」

グループリーグ最終戦のアメリカ戦後にそう語る北田の表情からは揺るがない自信があふれていた。その言葉通り、今大会の北田のプレーには微塵の迷いも不安も感じられない。最も象徴的だったのは、グループリーグ第3戦のフランス戦だ。

すでに2敗していた日本にとって、それは絶対に落とすことの許されない正念場だった。しかし、1Qからリードを許し、2Qでは一時2ケタ差にまで広げられるといった苦しい展開となった。すぐに1ケタ差に戻して粘り強く戦うも、ビハインドを負ったまま最後の4Qを迎えた。

その4Qでは、北田の3ポイントシュートで1ポゼッション差にまで迫ったものの、あと1本の差が大きく、日本の前に大きくたちはだかった。なかなか追いつけないまま時間は刻々と過ぎ、試合時間残り2分半で39-44と、フランスがリードを広げる形で死守していた。

日本はコート上に強固な「ラインディフェンス」を構築。粘り強い守備でフランスを追い詰める | チームをけん引する北田千尋、引退覚悟からたどり着いた世界の舞台|2026 IWBF 車いすバスケットボール世界選手権大会 | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

日本はコート上に強固な「ラインディフェンス」を構築。粘り強い守備でフランスを追い詰める

しかし終盤、潮目が変わり始めた。要因は、日本のディフェンスにあった。コンタクトの強いディフェンスで相手にシュートチャンスを与えず24秒バイオレーションを奪うと、さらに財満いずみ(1.0)の好守備にフランスがオフェンスファウルを取られるなど、日本のディフェンスに相手は追い込まれていったのだ。

そしてその間、チームに貴重な得点をもたらしたのが北田だった。フリースローを2本いずれもネットに沈めて3点差とすると、相手が明らかに北田の3ポイントを警戒して張り出すなか、「チャンスが来たら何も考えずに打ち切ることしか考えていなかった」という北田はディープスリーを決めてみせ、44-44。試合時間残り29.2秒という土壇場で、ついに試合を振り出しに戻した。

しかし、北田のスーパープレーはこれで終わりではなく、クライマックスはこの後に訪れた。残り7.2秒、フランスボールでゲームが再開すると、北田がフランスのスローインのボールをパスカットし、すかさずゴールへ一直線に走った。そしてベースラインから相手のチェックを受けながらの厳しい体勢のなか、北田はフェイダウェイシュートを放った。ボールがネットに吸い込まれていくのと同時に試合終了のブザーが鳴り響き、北田の鮮やかなブザービーターで日本が逆転勝利をおさめた。

試合残り29.2秒、同点へと追いつく圧巻のディープスリーを沈める北田千尋 | チームをけん引する北田千尋、引退覚悟からたどり着いた世界の舞台|2026 IWBF 車いすバスケットボール世界選手権大会 | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

試合残り29.2秒、同点へと追いつく圧巻のディープスリーを沈める北田千尋

北田のシュート決定力の高さの裏にある自分への信頼

北田は、フランス戦でチーム得点の約7割の32得点をマーク。それも出場時間は23分40秒だったのだから驚異的な数字と言えるだろう。さらに3ポイントに限っては5本すべてを決める芸当を演じた。そして北田の活躍はフランス戦だけにとどまらない。グループリーグ全5試合でチームのトップスコアラーとなり、そのうち4試合で20得点以上、5試合でのフィールドゴール(FG)成功率は49.4%を誇った。

だが、この活躍の裏には、引退をも覚悟したという苦しい日々があった。昨年12月にリウマチを患い、2カ月後の大阪カップを欠場。その後、代表の強化合宿には参加するものの身体の痛みや薬の副作用に耐えながらの状態が続いた。今年6月、世界選手権に向けてのカナダ遠征の時点でも「何もできなかった」という。

それでも「大好きな世界の舞台に戻りたい」という思いが北田を奮起させた。カナダ遠征から帰国後、「スイッチを入れ直した」という北田は、医師に相談をして処方する薬や治療内容を変え、トレーニングにおいてもトレーナーを替えるなど、さまざまなことを試みた。

さらに、シュートについても見直した。これまではシューティングフォームについて専門家にアドバイスを求めるなどしてきたが、それを一切やめることにしたのだ。「細かいフォームとかフォロースルーとかを考えるのではなく、ボールが指に引っかかる感覚だけを大事にして、あとは自分を信じて打つことに切り替えた」と北田。それが奏功し、決定力は格段に上がったという。今ではシュートを打つ瞬間、気持ちよくボールが指から離れていく感覚があれば、たとえ体勢が崩れても「いける」という自信がある。そのため、試合前のアップ時には指の感覚を確認するために近距離から打つくらいで、多くを打ったりはしない。

こうしたさまざまな取り組みにより、北田は今、世界の舞台に立っている。

「日常生活も難しかった時期は、『もうあの舞台に戻れないかもしれない。ここで引退なのかな』ということまで考えた。だからまたこうして世界選手権という場に立てていることが、本当にうれしい。やっぱり私は国際大会が好きだなと感じながら、楽しんでプレーしています」

3カ月前までは、北田自身も今大会の自身の活躍を想像することはできなかっただろう。北田のプレーには引退をも覚悟したからこその逞しさが宿り、自分自身を信じ切れるほど積み重ねてきた努力の日々が土台となっている。さらに強度が増す決勝トーナメントではどんなプレーで会場をわかせるのか、楽しみだ。

アメリカ戦で2ポイントシュート成功率50%をマークした柳本あまね。準々決勝での活躍に期待がかかる | チームをけん引する北田千尋、引退覚悟からたどり着いた世界の舞台|2026 IWBF 車いすバスケットボール世界選手権大会 | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

アメリカ戦で2ポイントシュート成功率50%をマークした柳本あまね。準々決勝での活躍に期待がかかる

実力を出し切れるかが最大のカギとなる準々決勝

女子の準々決勝は、大会8日目の16日に行われる。現地時間14日時点で相手は未定だが、グループBの4位である日本は、グループAの1位との対戦が決まっており、いずれにしても強豪国との勝負になることは確実で、厳しい戦いが予想される。

しかし、ここにきて復調の兆しを見せている選手もいる。例えば、前回の世界選手権では3ポイントシュートで世界にその名を知らしめ、ランキングでも2位となった柳本あまね(2.5)だ。今大会は試合を重ねるたびに得点を増やしており、グループリーグ最終戦のアメリカ戦では2ポイントシュートに限っては8本中4本と成功率も50%を誇った。準々決勝では持ち味の3ポイントを炸裂させる活躍を期待したい。

また、キャプテン萩野真世(1.5)や網本麻里(4.5)、土田真由美(4.0)、清水千浪(3.0)といった経験豊富なシューターたちについても、添田智恵ヘッドコーチは「彼女たちの実力はまだまだこんなものではない」と期待を寄せる。

試合を重ねるごとに完成度を高めてきた女子日本代表。一丸となって準々決勝の強豪に立ち向かう | チームをけん引する北田千尋、引退覚悟からたどり着いた世界の舞台|2026 IWBF 車いすバスケットボール世界選手権大会 | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

試合を重ねるごとに完成度を高めてきた女子日本代表。一丸となって準々決勝の強豪に立ち向かう

チーム自体の状態も上向きで、グループリーグ最終戦のアメリカ戦は敗れはしたものの、何度も8秒バイオレーションを奪うなどラインディフェンスに手応えを感じ、オフェンスもようやくフロアバランスの取れた広く速く展開していくスタイルを取り戻しつつあった。選手たちも口をそろえて「一番良かった」と語っており、準々決勝に向けて視界は良好と言える。

あとはコート上で、いかにこれまで積み上げてきた自分たちのバスケットを表現できるかだろう。勝てば、2002年以来6大会ぶりとなるベスト4進出、そしてロサンゼルスパラリンピックへの出場枠を獲得することができる。大一番で実力のすべてを出して勝利をつかみとれるかが注目される。

(文・斎藤寿子/撮影・村上智彦、玉城萌華)

【車いすバスケットボール】
 一般のバスケットボールとほぼ同じルールで行われる。ただし「ダブルドリブル」はなく、2プッシュ(車いすを漕ぐこと)につき1回ドリブルをすればOK。
選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から1.0~4.5までの8クラスに分けられている。コート上の5人の持ち点の合計は14点以内に編成しなければならない。主に1.0、1.5、2.0の選手を「ローポインター」、2.5、3.0、3.5を「ミドルポインター」、4.0、4.5を「ハイポインター」と呼ぶ。
コートの広さやゴールの高さ、3Pやフリースローの距離は一般のバスケと同じ。障がいが軽いハイポインターでも車いすのシートから臀部を離すことは許されず、座ったままの状態で一般のバスケと同じ高さ・距離でシュートを決めるのは至難の業だ。また、車いすを漕ぎながら、ドリブルをすることも容易ではなく、選手たちは日々のトレーニングによって高度な技術を習得している。
ジャンプはないが、ハイポインターが車いすの片輪を上げて高さを出す「ティルティング」という技がある。ゴール下の激しい攻防戦の中、ティルティングでシュートをねじ込むシーンは車いすバスケならではの見どころの一つだ。
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