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2025年11月15日

2025 IWBFアジアオセアニアチャンピオンシップス

車いすバスケ男子日本代表、オーストラリアとの激闘で示した現在地

2011年以来7大会ぶりにAOC準優勝の男子日本代表。来年は2大会ぶりに世界選手権に出場する | 車いすバスケ男子日本代表、オーストラリアとの激闘で示した現在地|2025 IWBFアジアオセアニアチャンピオンシップス | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

2011年以来7大会ぶりにAOC準優勝の男子日本代表。来年は2大会ぶりに世界選手権に出場する

11月7~15日、タイ・バンコクでは「2025 IWBFアジアオセアニアチャンピオンシップス」が開催され、男子日本代表は決勝でオーストラリアに57-62で敗れて準優勝。目標としていたアジアオセアニア王者の座につくことはできなかったが、5年もの間、世界の舞台から遠のいている日本にとって、公式戦のファイナルで世界トップクラスの強豪を最後まで苦しめた一戦は大きな収穫だった。

強豪を最後まで苦しめたプレスディフェンスと磨いてきたシュート力

再び世界の頂が見える位置へーーオーストラリアとの決勝は、その狼煙を上げるにふさわしいゲームとなった。

1Q、日本のフラットディフェンスが攻略され、いきなり10-21と大きなビハインドを負う苦しいスタートとなった。しかし、選手たちがいい意味でリラックスしてゲームに入れていると感じていた京谷和幸ヘッドコーチ(HC)は、この点差にも特に慌てることはなかったという。それだけ今大会の戦いぶりに自信を得ていたのだろう。前日のインタビューで語っていた「今の日本には、アジアオセアニアチャンピオンの座を本気で狙いにいくだけの実力がある」という言葉に二言はなかった。

すると続く2Q、京谷HCの采配が的中した。ディフェンスをフラットからプレスに切り替えたことが奏功し、オーストラリアの得点がピタリと止んだのだ。オフェンスにもいい流れが生まれ、赤石竜我(2.5)のミドルシュートを皮切りにして、鳥海連志(2.5)、髙柗義伸(4.0)、香西宏昭(3.5)が競うようにして次々とアウトサイドからシュートをネットに沈めた。怒涛の5連続得点で、一気に1点差まで詰め寄った日本は、ここから激しい攻防戦を繰り広げていった。フィールドゴール(FG)成功率も1Qの29%から43%にまで引き上げ、45%としたオーストラリアとまさに互角の実力を示した。

チーム初得点を皮切りに12得点。ディフェンスでも持ち味を発揮した赤石竜我 | 車いすバスケ男子日本代表、オーストラリアとの激闘で示した現在地|2025 IWBFアジアオセアニアチャンピオンシップス | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

チーム初得点を皮切りに12得点。ディフェンスでも持ち味を発揮した赤石竜我

3Qに入ってすぐに髙柗、香西の連続得点で逆転に成功した日本は、一時は4点リードと流れを引き寄せかけた。しかし、オーストラリアも3ポイントシュートを決めるなどして決して試合の主導権を渡してはくれなかった。3Qを終えて44-43。この時点でどちらに軍配が上がるかはまったくわからなかった。

最後の4Qに入ってすぐにギアを上げてきたのは、オーストラリアだった。今大会MVPに輝いた20歳の新鋭、ジェイレン・ブラウン(4.0)が3ポイントシュートを皮切りに、一人で3連続得点と独壇場とし、一気に流れを引き寄せた。しかし、日本も黙ってはいなかった。終盤、香西がこの試合チーム初となる3ポイントシュートを決めると、負けじと最後の最後、今大会の締めくくりとばかりに会場をわかせたのは、鳥海だった。前日の準決勝イラン戦ではチーム最多の26得点と世界選手権の出場権がかかった大一番に本領を発揮した鳥海だったが、この日は3Qまで6得点、FG成功率27%にとどまっていた。そのうっ憤を晴らすかのように、試合時間残り20秒で立て続けに2本の3ポイントシュートを炸裂し、会場をわかせた。結局、追いつくことはできずに57-62で敗れたものの、“男子日本代表復活"を印象付けるには十分な戦いだった。

AOCの雪辱を果たし、世界の舞台へ

試合後、京谷HCはこう選手たちを鼓舞した。
「この借りは絶対に世界選手権で返すぞ!」

来年9月にカナダ・オタワで開催される世界選手権は、男子日本代表にとって2大会ぶりの出場。さらに言えば、東京2020パラリンピック競技大会以来の“世界一決定戦"の舞台となる。

振り返れば、男子日本代表が突如思いも寄らなかったいばらの道を歩み始めたのは、コロナでAOCを途中棄権したことで前回の世界選手権に出場することができなかったことからだった。さらに前回のAOCでは4位となり、男子日本代表の歴史では史上初めてパラリンピック出場を逃すという屈辱も味わった。しかし、選手たちは腐ることなく、努力を積み重ねてきた。今大会はその成果を十分に示したと言っていい。

14得点10リバウンド10アシストでトリプルダブルを達成。オールスター5に輝いた鳥海連志 | 車いすバスケ男子日本代表、オーストラリアとの激闘で示した現在地|2025 IWBFアジアオセアニアチャンピオンシップス | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

14得点10リバウンド10アシストでトリプルダブルを達成。オールスター5に輝いた鳥海連志

「AOCでの借りはAOCでしか返せない」と語っていたキャプテン川原凜(1.5)は、「なんとか報われたかなと思います。世界選手権の出場権を取ることができたので、ほっとしています」と述べ、安堵の表情を浮かべた。“報われた"という言葉からは、ふだんは決して人前では見せない涙をこらえきれずに流した、あの屈辱の日から川原が人知れず悩み、キャプテンとしての重責を抱えながら過ごしてきたこの2年間の重みが感じられた。

チームはいったん解散し、再び選考が始まる。今シーズンは海外リーグに挑戦する選手も増え、彼らがどのような経験と実力を身につけて代表へ還元するのか、大きな期待が寄せられている。さらに彼らが不在とする中、京谷HCは国内での強化合宿に次世代強化カテゴリー指定選手も呼ぶことを考えていると言い、若手の台頭にも注目がおかれる。

約1年後、男子日本代表はどのようなチームになって世界の強豪たちの前に久々に登場するのか。2026年も彼らから目が離せそうにない。

【2025 IWBFアジアオセアニアチャンピオンシップス最終順位】
準優勝 

【試合結果(日本戦)】

■予選リーグ
11/8 ● 日本 57–72 オーストラリア
11/9 ○ 日本 64–46 イラン
11/10 ○ 日本 71–50 韓国
11/11 ○ 日本 81–28 タイ
11/12 ● 日本 80–28 中国
予選リーグ:4勝1敗(2位通過)

■決勝トーナメント
11/13 準々決勝 ○ 日本 66–24 イラク
11/14 準決勝  ○ 日本 65–55イラン
11/15 決勝   ● 日本 57–62 オーストラリア

(文・斎藤寿子/撮影・竹内圭)

【車いすバスケットボール】
 一般のバスケットボールとほぼ同じルールで行われる。ただし「ダブルドリブル」はなく、2プッシュ(車いすを漕ぐこと)につき1回ドリブルをすればOK。
選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から1.0~4.5までの8クラスに分けられている。コート上の5人の持ち点の合計は14点以内に編成しなければならない。主に1.0、1.5、2.0の選手を「ローポインター」、2.5、3.0、3.5を「ミドルポインター」、4.0、4.5を「ハイポインター」と呼ぶ。
コートの広さやゴールの高さ、3Pやフリースローの距離は一般のバスケと同じ。障がいが軽いハイポインターでも車いすのシートから臀部を離すことは許されず、座ったままの状態で一般のバスケと同じ高さ・距離でシュートを決めるのは至難の業だ。また、車いすを漕ぎながら、ドリブルをすることも容易ではなく、選手たちは日々のトレーニングによって高度な技術を習得している。
ジャンプはないが、ハイポインターが車いすの片輪を上げて高さを出す「ティルティング」という技がある。ゴール下の激しい攻防戦の中、ティルティングでシュートをねじ込むシーンは車いすバスケならではの見どころの一つだ。
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