
チーム一丸となり日本選手権3連覇を果たしたBLITZメンバー
車いすラグビー国内最高峰の戦い「第27回車いすラグビー日本選手権大会」は最終日の12月14日、千葉ポートアリーナ(千葉市)で決勝戦と順位決定戦が行われた。決勝ではディフェンディングチャンピオンのBLITZがFreedomを55-49で下し、大会3連覇を達成した。
両チームのハードワークが光った決勝戦

激しいボールの奪い合いを展開する池透暢(左)と池崎大輔(右)
2025年を締めくくる国内頂上決戦を前に、会場は心地よい緊張感に包まれた。
ここまで4試合を戦い抜き、決勝の舞台に立ったのは、日本選手権で最多優勝回数を誇るBLITZ(東京)と3大会ぶりの王座奪還を目指すFreedom(高知)。前回大会と同じカードでの決勝となった。
BLITZは島川慎一―池崎大輔―日向顕寛―長谷川勇基と、予選ラウンドの1試合を除きスタメン起用してきたラインナップでティップオフに臨む。対するFreedomは池 透暢、白川楓也、畑中功介に松岡幸夫というラインで試合開始を迎えた。
先制点をあげたFreedomに対し、BLITZは連係のとれた守備で相手の攻撃を阻む。強いプレッシャーにより池の手からボールがこぼれると、ターンオーバーを奪い確実にスコアへと持ち込むBLITZ。この試合に向けて入念な準備をし、チームプランを着実に遂行していることが、各プレーヤーの動きから伝わってくる。仲間のプレーヤーが相手ディフェンスにつかまる中、選手2人の頭上を越える山なりのパスを出し、自らフロントコートでキャッチするという、想像の上をいく池のパフォーマンスに歓声があがる。わずかな点差はあるものの、第1ピリオドはほぼ互角の戦いを見せ、14-12のBLITZリードで終えた。
第2ピリオドで、ひときわ目を引いたのが、車いすラグビーでは一番障がいの重いクラス0.5の長谷川(BLITZ)の豊富な運動量だ。同クラスで国内トップの実力を持つ長谷川は、2手も3手も先を見据えて車いすを全力でこぎ、いち早くチェアポジションを取る。前半終了間際には、池崎からのインバウンドをキーエリアでキャッチした長谷川がトライ、27-23として試合を折り返した。
ゲームが進むにつれ、体力はどんどん削られていく。50歳以上のメンバーを数名擁する両チームにとって、この強度で戦うのは容易なことではない。その中で、ハードワークで大事な1点をきっちりと収めていく53歳の畑中功介(Freedom)。池と白川にディフェンスが集中する場面で、スペースを意識しながら献身的に動き、第3ピリオドでは、池と白川を上回る5得点をあげた。しかし、その間にもBLITZは点差を広げ、ピリオドが終了する頃には41-33。ピリオド残り3.1秒になったところでBLITZはこの試合で初めてメンバーチェンジを行った。
最終ピリオド、今年1年のチーム活動を総括するかのように両チームが次々とベンチメンバーをコートへと送り込む。試合は終盤に差し掛かるが、そこでも4連続得点を挙げ引き離そうとするBLITZ。それに対して、少しでも点差を詰めようとスコアを急ぐFreedom。両者は試合終了のブザーがなる瞬間までスコアすることにこだわり、電光掲示板が残り0.3秒を示してもラストゴールを奪うため全力を尽くした。そうして55-49でノーサイドを迎えBLITZが大会3連覇を果たし、11度目の優勝を勝ち取った。

BLITZの中心メンバーとしてプレーをする小川仁士。本大会はアシスタントコーチとしてベンチから指示を出す
池崎大輔は、「ゲームプランをもとにコートの中でコミュニケーションをとり、いろいろなラインを使いながら戦えた。戦略がしっかりハマったから、こういうゲーム展開ができた」と試合を振り返り、「3連覇は簡単なことじゃない。結果を残せた」と、充実した表情で優勝の喜びを語った。
3連覇という目標を見事に達成したBLITZだが、決して盤石な布陣で臨んでいた大会ではなかった。中心メンバーの小川仁士が、コンディション不良のためアシスタントコーチに専念。ファーストラインをはじめ、ラインナップのバリエーションにも影響があり、「小川がいない中で、いかに勝ち切れるかという不安があった」と島川は明かしている。自身の口から語られることはなかったが、小川本人が一番悔しく歯がゆかったはずだ。ただ、これまでコート上でゲームメイクを担ってきた、小川のアシスタントコーチとしての働きは大きかったという。ベンチにいてもやれることがある、ベンチにいても共に戦う、そんな一人ひとりの優勝への思いが、この結果をたぐり寄せた。
3位決定戦で存在感を示したTOHOKU STORMERS

圧倒的速さを武器にRIZEの選手を置き去りにした橋本勝也
決勝に先立ち行われた「TOHOKU STORMERS(東北) 対 RIZE CHIBA(千葉)」の3位決定戦は、STORMERSが55-32で勝利を収め、2大会連続で3位に輝いた。STORMERSは今シーズンのチームスローガンである「精進」を全員が体現。堅いディフェンスで主導権を握ると、オフェンスでは相手守備を次々と突破していく力強さと、自分より持ち点の高い選手にも走り負けないスピードでRIZEを圧倒した。
優勝を目標に掲げた今大会、前回と同じ3位という結果も、STORMERS・橋本勝也の表情には充実感のようなものがにじんでいた。「悔しさの残る大会にはなったが、意味のある3位だと思っている。(予選ラウンドの)BLITZ戦では最後の最後までどちらが勝つのか分からない試合を繰り広げることができて、昨年の自分たちとは違う、新たなSTORMERSの色を出せた。(今大会は選手6人での戦いとなり)フルメンバーではなく、替えもいなくて、スタミナを削られまくった中でのこの結果。この1年やってきたことが報われた部分もある。悔しさがあるとはいえ、やり切った結果です」
一方、2018年大会以来となるベスト4の成績を収めたRIZE。7年前にもRIZEのメンバーとして3位決定戦を戦った今井友明は、「うれしさもあるが、最後は勝って終わりたかった」と率直な心境を口にした。
また、初出場チーム同士の対戦となった「COAST 対 GLANZ」の7-8位決定戦は、50-42でCOASTが勝利し、チームが目標として掲げた、本大会での「1勝」をつかみ取った。
全20試合で熱戦が繰り広げられた、車いすラグビー日本選手権。
勝利を目指す過程に様々な思いやストーリーがひしめく国内頂上決戦に今後も注目したい。
■試合結果(12月14日)
<7-8位決定戦>
COAST ⚪︎50‐42⚫︎ GLANZ
<5-6位決定戦>
Fukuoka DANDELION⚪︎52‐45⚫︎ AXE
<3位決定戦>
TOHOKU STORMERS ⚪︎55‐32⚫︎ RIZE CHIBA
<決勝戦>
BLITZ ⚪︎55‐49⚫︎ Freedom
■最終結果
優勝:BLITZ
2位:Freedom
3位:TOHOKU STORMERS
4位:RIZE CHIBA
5位:Fukuoka DANDELION
6位:AXE
7位:COAST
8位:GLANZ
(文・張 理恵/写真・中島功仁郎、玉城萌華 )
【車いすラグビー】
四肢麻痺など比較的障がいの重い人でもできるスポーツとして考案された男女混合の競技。1チーム4人で、8分間のピリオドを4回行い、その合計得点を競う。バスケットボールと同じ広さのコートでプレーし、球形の専用ボールを使用する。ボールを持った選手の車いすの車輪2つが、敵陣のトライラインに乗るか、もしくは通過するかで得点が認められる。
選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から0.5~3.5までの7クラスに分けられている。コート上の4人の持ち点の合計は8点以内。ただし、女子選手が出場する場合は持ち点の加算が認められており、クラス0.5~1.5の女子選手には1人につき0.5点、クラス2.0~3.5の女子選手には1人につき1.0点が加算される。
「ラグ車」とも呼ばれる競技用車いすは「攻撃型」と「守備型」の2種類ある。主に障がいが軽い選手が乗る「攻撃型」は、狭いスペースでも動きやすいようにコンパクトな作りになっており、相手の守備につかまらないように凹凸が少ない丸みを帯びた形状となっている。一方、主に障がいが重い選手が乗る「守備型」は、前方に相手の動きをブロックするためのバンパーが付けられている。
パラリンピック競技で唯一、車いすによるタックルが認められており、「マーダー(殺人)ボール」という別名がつくほど、激しいプレーの応酬が魅力の一つ。その激しさは、ボコボコに凹んだ車いすのスポークカバーを見れば一目瞭然だ。