
池透暢は「アメリカの圧力やスキル、戦略の精度の高さが日本を上回った」と試合を振り返った
世界の頂点を目指し熱い戦いが繰り広げられている「2026 WWR車いすラグビー世界選手権大会」。大会6日目の8月22日、日本はアメリカとの準決勝に臨んだ。日本はディフェンスで流れを引き寄せ、序盤からリードする展開が続いたが、高い修正力を見せたアメリカに第4ピリオドで逆転を許すと、ビハインドを覆すことができずに49-50で敗れ、決勝進出を逃した。
ディフェンスが機能した前半、日本がリードを奪う
準決勝は、日本が銅メダルを獲得した前回の2022年大会と、奇しくも同じカードとなった。
長谷川勇基―小川仁士-池透暢―橋本勝也のラインナップでスタートした日本は、序盤にターンオーバーを奪いリードする。ディフェンスでは相手のバックコートから激しいプレッシャーをかけ体力を削り、オフェンスでは、キーエリアで池からパスを受けた持ち点0.5の長谷川がトライを挙げるなど、日本のリズムで試合が展開される。ラストゴールもきっちりと収め、14-11の3点リードで第1ピリオドを終えた。
第2ピリオド、これ以上リードを許すまいと執拗に絡むアメリカは、日本のインバウンドをカットし、また、強烈なタックルを浴びせるなどして同点に持ち込む。ただ、このピリオドでも残り1.9秒で小川がラストトライを決め、25-24と日本のリードで前半を終えた。

激しいディフェンスで前線を支え、第2ピリオド終盤にはラストトライを決めるなど攻守にわたり活躍を見せた小川仁士
第3ピリオドは、日本が先行する形で交互に1点を取り合う時間帯が続く。しかし、「1点」を取るまでの道のりはタフさを増す。車いすラグビーでは、インバウンドのボールを受け取ってからフロントコートに運ぶまでの制限時間は12秒。そのぎりぎりまで日本を追い込む、アメリカのディフェンスの強度が一段上がる。それでも最後まであきらめずにゴールを狙う強い思いがビッグプレーを生む。ピリオド残り2.7秒。タイムアウト明け、日本ボールでフロントコートから再開。小川、池、壁谷知茂がキーエリア内に狭い感覚で3人並ぶ。インバウンダーは中町俊耶。笛が吹かれると、中町が放った山なりのボールがきれいに池の手に収まり、スッと後ろ向きに池の車いすがトライラインを越えた。これで37-36とし、最終ピリオドを迎えた。
高い修正力を見せたアメリカが勝利を収める
勝負の8分間を前に、円陣を組み、心をひとつにする両チーム。
第4ピリオド開始から間もなく、日本のインバウンドの場面を狙ったアメリカがターンオーバーを奪い、自らの得点にして逆転する。劣勢に追い込まれた日本はチャンスをうかがうが、その間にも試合時間は確実に減っていく。そこに、2つの車輪がトライラインを超える前にコート内側に戻る「アウト・アンド・イン バイオレーション」を取られ、日本は2点のビハインドを負った。勝利への信念を捨てることなく最後のブザーが鳴る瞬間まで全力を尽くすも、49-50で試合終了。日本はアメリカに破れ、決勝進出を逃した。

試合後、悔しさをあらわにした橋本勝也だったが、4年前の世界選手権から大きく成長した姿を堂々と披露した
肩を落とし、涙が頬をつたう。観客に応援への感謝を伝えると、選手たちは静かにコートを後にした。
橋本勝也はうずくまり、流れる涙を抑えきれなかった。
「何が間違ってたのかなって。前回の世界選手権で悔しい思いをして4年間、そしてパリパラリンピック以降も2年間、必死で練習をしてきたのに、あと一歩のところで及ばなかった。世界で一番質のいい合宿をやってきたという自信があったのに、何が間違ってたのかな、何が足りなかったのかなって。
今大会で選ばれなかったメンバーであったり、選考されていたけれど出場がかなわなかったメンバーもいる中で、その思いを背負って試合に挑んでいた。みんなが望んでいた結果にならなかったのは、自分の責任がすごく大きい。自分のミスがすごく目立つ試合でもあったので、自分のもろさや弱さ、本当にいろいろと課題を突き付けられた」
長い沈黙のあと、こう言葉を絞り出した橋本は、唇をかみしめた。
日本はイギリスとの3位決定戦へ
「選手のパフォーマンスに関してはすごく満足していて、最後までアグレッシブにアタックするっていうことを徹底してくれた」
試合後、中谷英樹ヘッドコーチ(以下、HC)が最初に口にしたのは、選手のプレーを称える言葉だった。
「自分たちがやりたいディフェンスというのが最初はすごくうまくいった。その中で、アメリカはしっかり修正してきて、逆にアメリカのディフェンスが少しずつ日本のストレスになっていった」
今大会ではアシスタントコーチを兼任する池も、コートでこのように感じていた。
「日本は国際大会でしばらく負けていなかったので自信もあったし、プレーの精度も高くなって全体的な強さはあった。ただ、今日のゲームに関しては、アメリカの圧力やスキル、戦略の精度の高さが、日本を上回った。インバウンドのシチュエーションなど、いま一度自分も磨き直さなければいけないし、そのわずかなひとつが非常に大切だと個人的に反省している」
しかし、日本の戦いが終わったわけではない。大会最終日の8月23日、日本はイギリスとの3位決定戦に臨む。集大成となる一戦を前に、池は決意を語った。
「自分たちがやってきた日本のラグビー、アグレッシブなラグビーを明日もやります」
日本が世界に誇れるラグビーを、しっかり目に焼き付けたい。
【日本代表結果(6日目)】
準決勝 日本 ● 49 - 50 〇 アメリカ
(文・張 理恵/写真・竹内圭)
【車いすラグビー】
四肢麻痺など比較的障がいの重い人でもできるスポーツとして考案された男女混合の競技。1チーム4人で、8分間のピリオドを4回行い、その合計得点を競う。バスケットボールと同じ広さのコートでプレーし、球形の専用ボールを使用する。ボールを持った選手の車いすの車輪2つが、敵陣のトライラインに乗るか、もしくは通過するかで得点が認められる。
選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から0.5~3.5までの7クラスに分けられている。コート上の4人の持ち点の合計は8点以内。ただし、女子選手が出場する場合は持ち点の加算が認められており、クラス0.5~1.5の女子選手には1人につき0.5点、クラス2.0~3.5の女子選手には1人につき1.0点が加算される。
「ラグ車」とも呼ばれる競技用車いすは「攻撃型」と「守備型」の2種類ある。主に障がいが軽い選手が乗る「攻撃型」は、狭いスペースでも動きやすいようにコンパクトな作りになっており、相手の守備につかまらないように凹凸が少ない丸みを帯びた形状となっている。一方、主に障がいが重い選手が乗る「守備型」は、前方に相手の動きをブロックするためのバンパーが付けられている。
パラリンピック競技で唯一、車いすによるタックルが認められており、「マーダー(殺人)ボール」という別名がつくほど、激しいプレーの応酬が魅力の一つ。その激しさは、ボコボコに凹んだ車いすのスポークカバーを見れば一目瞭然だ。