
キャプテンの小川仁士は「世界一を獲りたい」と今大会にかける思いを語った
8月21日、ブラジル・サンパウロで開催されている「2026 WWR車いすラグビー世界選手権大会」は大会5日目を迎え、準々決勝4試合と9-12位決定トーナメントの2試合が行われた。オランダとの準々決勝に臨んだ日本は、対戦実績のない相手に対して自分たちのラグビーで流れを引き寄せ58-44で勝利し、準決勝へと駒を進めた。
試合序盤はオランダにペースを握られる
予選ラウンド プールB・1位の日本(世界ランキング1位)は、プールA・4位のオランダ(同13位)との準々決勝に臨んだ。
ベテランメンバーですら、これまでオランダとは対戦経験がないとあってか、序盤はややスローなテンポで試合が進んだ。先制点を挙げたオランダが先行する形が続くなか、相手のクラス1.5のプレーヤーに池透暢がコート外へと押し出されたり、橋本勝也が相手の選手2人にがっつり抑え込まれるなど、立ち上がりはオランダのペースに引きずられる。第1ピリオド中盤にコートに入った池崎大輔がパスカットで次々とターンオーバーを奪う。さらにバックコート・バイオレーションを与え、流れを引き寄せた日本は16-14で最初のピリオドを終えた。
第2ピリオド、倉橋香衣が入るバランスラインでスタートした日本は、池、池崎、中町俊耶がコンスタントにゴールを決めていく。昨年1月の国際ルール変更後、ピリオド終わりのラストゴールをめぐり、残り時間1分を切ってからのタイムアウトを使った攻防が熱を帯びている。あと1点を追加して前半を終えたいオランダは、ピリオド残り0.3秒でタイムアウトを取り、フロントコートからのインバウンドでトライを狙う。ただ、これはノートライに終わり、28-24で試合を折り返した。
ディフェンスで流れを引き寄せ全員ラグビーで勝利
「特別なことはやらずに、日本のいつものディフェンスを繰り返すことで、後半どんどんハマっていったという感覚があった」
キャプテンの小川仁士がこう振り返るように、第3ピリオド中盤、オランダのパスコースを徹底的につぶしターンオーバーを連発すると、日本のリードは気づけば9点にまで広がり43-34で最終ピリオドを迎える。第4ピリオドでは、ここまでベンチを温めていた鈴木康平と西村柚菜もコートで躍動し、58-44で試合終了。全員ラグビーで勝利を手にした日本は、準決勝へと駒を進めた。
この試合でプレーヤー・オブ・ザ・マッチを受賞した小川は、優勝への強い思いを持って今大会に臨んでいる。
「優勝以外は負けだと考えている。2位も最下位も一緒だと思っているので、必ず勝ち切りたい。内容は問わない。泥臭い試合をしてでも世界一を獲りたい」
それを有言実行するため、準決勝のアメリカ戦に向け決意を新たにした。
「アメリカにはパリパラリンピックで勝っているし、僕たちは常にアメリカよりもさらに高いレベルで合宿や試合をやってきた。自信を持って試合に臨みたい。アメリカと構えず、しっかり自分たちがやってきたことを冷静に落ち着いてやるだけ。勝てます」
日本代表復帰を果たした倉橋香衣

代表復帰を果たした舞台で、相手の動きを冷静に見極める倉橋香衣。献身的なハードワークでチームを支えた
1年6カ月ぶり、そして海外で行われる国際大会としては、パリ・パラリンピック以来の代表戦となったのは、倉橋香衣だ。肩のコンディションが上がらず、痛みを抱えながらプレーをしていたことから、2025年2月の「ジャパンパラ車いすラグビー競技大会」以降、試合でラグ車に乗る倉橋を見ることはなかった。「攻めの休養」をとった倉橋は、リハビリやトレーニングに専念し、肩甲骨周りなど背中の使い方の練習などに地道に取り組んだ。
その期間は1年に及び、「このままがんばっていていいのか、自分は何がやりたいんだろうと、自分自身のことやラグビーについていろいろと考えた」という。たくさん弱音も吐いたし、周りの人にいっぱい相談もしたと明かした倉橋だが、ようやくラグ車に乗り始めて対人練習を再開したときには「改めてラグビーって楽しいと思えた」と振り返る。
そうして今大会で代表復帰を果たし、トレードマークである笑顔とともに、国際大会の舞台に帰ってきた。
「責任を持ちつつ、でも、楽しもうっていう気持ちで大会に入った。実際にやっぱり試合は楽しい」
日本代表の中谷英樹ヘッドコーチが「安定感はチームの中でも一番」と信頼を寄せる倉橋は、この試合でもピリオド終わりの緊迫した場面をはじめ、いくつものラインナップで、様々なシチュエーションで出場し、きっちりと仕事を遂行した。
世界選手権には、2018年と2022年大会に続き3回目の出場となった。
「もちろん勝ちたいっていう気持ちはあるけど、それよりも、このためにみんなでやってきたし、個人としてもしっかり準備してきたので、この大会に向けてやってきたことをしっかりやりたいと思う。世界選手権という大きな舞台ではあるが、いつも通りのプレーをしたい」
倉橋の献身的なハードワークと、試合中にも時折見せる笑顔が、日本に勝利をもたらすに違いない。
車いすラグビー世界選手権は、残すところあと2日。
8月22日、日本はアメリカとの準決勝に臨む。
【試合結果】
準々決勝 日本 〇 58 - 44 ● オランダ
(文・張 理恵/写真・竹内圭)
【車いすラグビー】
四肢麻痺など比較的障がいの重い人でもできるスポーツとして考案された男女混合の競技。1チーム4人で、8分間のピリオドを4回行い、その合計得点を競う。バスケットボールと同じ広さのコートでプレーし、球形の専用ボールを使用する。ボールを持った選手の車いすの車輪2つが、敵陣のトライラインに乗るか、もしくは通過するかで得点が認められる。
選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から0.5~3.5までの7クラスに分けられている。コート上の4人の持ち点の合計は8点以内。ただし、女子選手が出場する場合は持ち点の加算が認められており、クラス0.5~1.5の女子選手には1人につき0.5点、クラス2.0~3.5の女子選手には1人につき1.0点が加算される。
「ラグ車」とも呼ばれる競技用車いすは「攻撃型」と「守備型」の2種類ある。主に障がいが軽い選手が乗る「攻撃型」は、狭いスペースでも動きやすいようにコンパクトな作りになっており、相手の守備につかまらないように凹凸が少ない丸みを帯びた形状となっている。一方、主に障がいが重い選手が乗る「守備型」は、前方に相手の動きをブロックするためのバンパーが付けられている。
パラリンピック競技で唯一、車いすによるタックルが認められており、「マーダー(殺人)ボール」という別名がつくほど、激しいプレーの応酬が魅力の一つ。その激しさは、ボコボコに凹んだ車いすのスポークカバーを見れば一目瞭然だ。