
相手ディフェンスの上から高確率でシュートを決め、チームのオフェンスをけん引した鳥海連志
大会7日目の15日、男子の準々決勝が行われ、日本はヨーロッパ2位のイギリスと対戦した。前半は守備の戦略が的中した日本がプラン通りの試合運びで主導権を握り、最大18点のリードを奪った。しかし後半にイギリスの猛追にあい、4Q終盤に逆転を許した日本は66-68と2点差に涙をのんだ。ただ敗れはしたものの、これまでとは違う日本の強さを世界に知らしめた一戦でもあった。
日本を襲ったイギリス“ミドルラインナップ"の猛追
勝てば、初のベスト4進出、さらにはロサンゼルスパラリンピックへのアジアオセアニアゾーンの出場枠獲得という大一番、高さとシュート力を兼ね備えた強豪イギリスに対して、日本のディフェンスの狙いは明確だった。世界随一のビッグマンであるリー・マニング(4.5)、得点力のある長身ミドルポインターで勢いに乗せたくない23歳の若手オスカー・ナイト(3.0)の2人をインサイドから締め出し、ペイントエリアから得点をさせないことにあった。イギリスには世界トップクラスのアウトサイドシューターたちがいるが、彼らのシュートに対しては深追いせずに、マニングとナイトがインサイドに入る隙やスペースを作らないことを徹底する戦略だった。
果たして、その戦略が奏功し、前半20分を終えてペイントエリアからはわずか4得点に抑えた。マニングに関してはペイントエリアの外からの2得点のみ。2Q途中でベンチに下がり、それ以降は一度もコートに出ることはなかった。ナイトもアテンプト2でフリースローを含めて4得点と、本来の仕事ができずにいた。
出だしからペースを崩されたイギリスは、アウトサイドのシュートの確率も上がらず、前半は24得点とロースコアにとどまった。グループリーグで唯一の黒星、それも18点差と完敗したオーストラリア戦でも前半の得点は33だったことからも、いかに日本のディフェンスに苦戦を強いられたかがわかるだろう。

激しいディフェンスで相手にプレッシャーをかける川原凜
しかし、イギリスが戦い方を変えてきた後半、徐々に流れがイギリスの方へと傾いていった。3Q、イギリスはスピード、走力、アジリティに長けた5人をそろえた2.0、2.0、3.0、3.5、3.5というミドルポインターのラインナップで臨んできた。そこで日本はインサイドだけでなく、アウトサイドのシュートに対しても、しっかりとジャンプアップするディフェンスに切り替えた。しかしインサイドを割られるようになり、前半はわずか4にとどめていたペイントエリアからの得点が3Qの10分では8に。それに伴ってアウトサイドシュートの確率も上がり、前半はほとんどプラット一人だった得点源が複数に分散したことで、ディフェンスが難しくなっていった。
さらに4Qでは、高いラインまで張り出すイギリスのディフェンスに、日本は動きを封じられ、それまで見られていた鮮やかなボールムーブメントが影を潜めた。日本とは対照的に一段とギアを上げるイギリスの勢いを止めることができず、試合時間残り3分半でついに逆転を許した。
それでも日本は引き離されることなく1ポゼッション差のまま食らいついた。そして3点ビハインドで迎えた試合時間残り18.8秒、京谷和幸ヘッドコーチ(HC)は藤本怜央(4.5)と古澤拓也(3.0)を投入し、最後の勝負に出た。3ポイントシュートのカードを増やし、ディフェンスを分散させることが狙いだったのだろう。しかし、3ポイントを警戒するイギリスのディフェンスの前に思惑通りにはならず、2ポイントシュートでのフィニッシュを余儀なくされた。最後はファウルゲームに一縷の望みをかけたが、あと一歩及ばずに逆転負けを喫した。
世界レベルへ躍進を遂げた日本の得点力
もちろん敗戦という結果は、しっかりと受け止めなければならない。課題も少なくないだろう。しかし、ゲーム内容はこれまでの敗戦とはまったく異なる。日本はもうディフェンスが強いだけのチームではなく、得点力をも兼ね備えたチームへと生まれ変わったことが証明されたと言ってもいい一戦だったのではないか。
なかでも象徴的だったのは、京谷HCも「パーフェクトだった」と語る前半のオフェンスだ。インサイドをほぼ完ぺきに封じる一方で、イギリスのアウトサイドからの得点は、日本にはそれほど脅威には映らなかったに違いない。なぜなら、日本の方が高いシュート成功率を誇っていたからだ。フィールドゴール(FG)成功率は、1Qはイギリスが33%にとどまったのに対して日本は41%。さらに顕著だったのは2Qで、イギリスが37.5%と低迷が続いたのに対し、日本は75%を誇った。
そして、得点源にも両チームの間には明らかな差が生まれていた。イギリスは24得点のうち約6割の14得点をプラット一人が挙げ、そのほかは多くてもナイトの4得点と不発に終わっていた。一方で日本は鳥海連志(2.5)の15得点を筆頭に、香西宏昭(3.5)が11得点、髙柗義伸(4.0)も8得点をマークし、得点源を分散させていた。

相手の長身ブロックをかいくぐり、ゴール下でシュートを放つ髙柗義伸
最も大事な4Qにギアを上げることができなかったことは課題だが、それでも40分間を通してみても、FG成功率は日本が53%、イギリスは52%、さらにアテンプトの数も日本が60に対し、イギリスは61と、まさに互角だった。
しかも、これまでと大きく異なるのは、この1試合だけでなく大会を通してシュート成功率の高さをキープしていることだ。4試合を通してのFG成功率は50.6%で、スペイン、ドイツ、イギリス、ポーランドに続いて5番目に高く、ベスト4に進出したイタリアの49.7%、オーストラリアの47.9%を凌ぐ。
ちなみに銀メダルを獲得した東京パラリンピックでは、46%で出場12カ国中3番目に高かったが、その東京パラリンピック以降、世界は得点力がアップした一方で、日本は決定力不足に課題を抱えてきた。今大会はそれを払拭するに値する数字を出している。特にロサンゼルスパラリンピックのゾーン出場枠がかかった大一番で強豪イギリスに匹敵する数字をたたき出したのは、実力以外のなにものでもないだろう。
40分間フル出場し、チーム最多の25得点を挙げた鳥海は、この日の敗戦について「自分たちの実力はしっかりとベスト4に届くところにあると思っているし、今大会の自分たちはもっと上を目指せただけに、もどかしさしかない」としながらも得点力については、こう語る。
「僕個人のシュートアベレージも上がっているし、チームとしても1試合におけるFGのパーセンテージもかなり高くなっていることは事実。これは数年前の日本からしたらすごい成長だと感じています」
そして、こう続けた。
「だけど、この強度だったり、いろいろな重圧がかかった時にこそ決め切る力が、僕自身も含め、個人個人まだ足りていないなと感じました。こういう世界の舞台を多く経験していないからこそ出たもろさみたいなのが、後半の失速に表れたように思います」
ただ、今大会の勝負はまだ終わってはいない。16日(現地時間)からはチーム目標である“トップ5"の座をかけた戦いが始まる。「18点差を勝ち切れなかったのは、僕の責任でもあると思っています。ただ、まだトップ5という目標が残っていますので、これまでの4試合で感じてきた選手たちの成長を最後につなげて、目標を達成したいと思います」と京谷HC。世界一決定戦の舞台で日本の強さを刻み込み、再び世界のトップクラスへ復権の狼煙をあげられるか、注目したい。
(文・斎藤寿子/撮影・村上智彦、玉城萌華)
【車いすバスケットボール】
一般のバスケットボールとほぼ同じルールで行われる。ただし「ダブルドリブル」はなく、2プッシュ(車いすを漕ぐこと)につき1回ドリブルをすればOK。
選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から1.0~4.5までの8クラスに分けられている。コート上の5人の持ち点の合計は14点以内に編成しなければならない。主に1.0、1.5、2.0の選手を「ローポインター」、2.5、3.0、3.5を「ミドルポインター」、4.0、4.5を「ハイポインター」と呼ぶ。
コートの広さやゴールの高さ、3Pやフリースローの距離は一般のバスケと同じ。障がいが軽いハイポインターでも車いすのシートから臀部を離すことは許されず、座ったままの状態で一般のバスケと同じ高さ・距離でシュートを決めるのは至難の業だ。また、車いすを漕ぎながら、ドリブルをすることも容易ではなく、選手たちは日々のトレーニングによって高度な技術を習得している。
ジャンプはないが、ハイポインターが車いすの片輪を上げて高さを出す「ティルティング」という技がある。ゴール下の激しい攻防戦の中、ティルティングでシュートをねじ込むシーンは車いすバスケならではの見どころの一つだ。