
序盤からアウトサイドシュートを次々と沈め、オフェンスの核として躍動した鳥海連志
大会10日目の18日、男子日本代表はチーム目標の“世界のトップ5"を目指して、5位決定戦で東京2020パラリンピック以来となるアメリカ戦に臨んだ。出だしで主導権を握り、リードして試合を折り返したが、3Qに想定外の反撃にあい、大量失点。それが最後まで大きく響き、67-72と今大会のラストゲームを白星で飾ることはできなかった。5年ぶりに実現した日米戦を振り返る。
前半から忍び寄っていた“想定外の伏線"
2021年9月5日、東京パラリンピック決勝戦。日本とアメリカが激闘を繰り広げたあの熱戦から5年、再び“世界一決定戦"での対戦が実現した。東京パラリンピックでは4点差で惜しくも敗れた日本にとっては、5年越しとなるリベンジマッチでもあった。
まず1Q、主導権を握ったのは日本だった。その最大の要因はディフェンスにあった。今大会でアメリカの得点源となっていたジェイク・ウィリアムス(2.5)のアウトサイドと、ジョージ・サラザール(3.5)のインサイドのケアを徹底したのだ。その結果、ウィリアムスはFGでの得点は5点にとどまり、サラザールに関しては無得点と完璧に抑えた。京谷和幸ヘッドコーチ(HC)も「プラン通り」と手応えを感じていた。
翻って日本のオフェンスは鳥海連志(2.5)と髙柗義伸(4.0)が競い合うようにして得点を重ねた。鳥海がアウトサイドからFG成功率66%の高確率で決めれば、髙柗はゴール下から4本すべてのシュートをねじ込んでみせた。1Q、日本は攻防にわたって理想通りのスタートを切り、20-11と大きくリードした。
続く2Qもウィリアムスとサラザールをしっかりと抑え、32-25とリードを守って試合を折り返した。しかし、実はこの時すでに後半への伏線となる“想定外"のことが起きていた。チーム最年長47歳のポール・シュルト(2.5)の存在だ。これまでパラリンピックは4大会に出場した経験をもつ大ベテランで、2000年シドニー、12年ロンドンと銅メダルを獲得し、24年パリでは金メダルに輝いたキャリアを持つ。
しかし、今大会はプレータイムは少なく、得点も多くて1試合に3得点だった。ところが、この日は全盛期を思わせるようなプレーを見せ、前半を終えた時点でFG成功率100%を誇っていた。これには京谷HCも驚きを隠せなかった。
「試合の映像を見ても、それほどシュートの確率も高くはなかったし、あそこまで決めてくるとは……。ほかの選手へのマークを重点的にやる分、どうしても彼のところが薄くなってしまった。ベテランにやられたなと」

ジェイク・ウィリアムスのシュートを阻む鳥海連志と秋田啓
アメリカに勢いを与えた新星の躍進
そうして迎えた3Q、もう一つの“想定外"が試合を大きく動かし、アメリカに勢いを与えた。東京パラリンピック以降に代表入りした29歳のファビアン・ロモ(4.0)だ。彼はこれまで同じハイポインターのブライアン・ベル(4.5)やジョージ・サンチェス(4.0)の陰に隠れ、今大会でもなかなかプレータイムをもらえていなかった。
そのロモが3Qではスタートで起用されると、指揮官の期待に応えるかのように躍動し、インサイド、アウトサイドの両方からシュートを決めると、中盤には3ポイントシュートも炸裂。交代するまでの約7分間でFG成功率60%の高確率で7得点をマークした。ついにベールを脱いだかのようなロモの活躍ぶりに、ベンチもスタンドもわき返り、アメリカは勢いを加速。一気に流れを引き寄せて逆転に成功すると、日本を引き離した。
しかし、日本も負けてはいなかった。4Qに入ると、赤石竜我(2.5)、香西宏昭(3.5)と連続得点、さらには鳥海がフリースローを2本ともに決めると、その直後にキャプテン川原凜(1.5)がレイアップを決めるなどして反撃した。しかし、4点差にまでは詰めよるも、どうしても1ポゼッション差には至らず、苦しい時間帯が続いた。
さらにアメリカに3連続得点を奪われたところで、京谷HCは2.5、2.5、2.5、3.0、3.5の“ミドルラインナップ"のカードを切り、プレスディフェンスに切り替えた。これが奏功し、今度は日本が連続得点の応酬で猛追。終盤には古澤拓也(3.0)が3ポイントシュート、そして最後は丸山弘毅(2.5)が今大会自身初得点を挙げ、一矢報いた。それでも追いつくまでには至らず、5点差で涙をのんだ。
東京パラリンピックと同じような展開で、同じような点差での敗戦だった。だが、5年前との明らかな違いは、試合後の選手たちの様子にあった。東京パラリンピックではあと一歩で金メダルを逃し、もちろん悔しい気持ちはあっただろう。しかしどちらかといえば、死力をつくし、アメリカという強豪国と決勝という舞台で互角に渡り合えたという達成感の方が大きかったのではなかったか。そのため、試合後の選手たちにはすがすがしい笑顔があった。

少ないシュートチャンスを逃さず高確率で決めた赤石竜我
一方、今回は選手たちに笑顔は皆無だった。あったのは悔しさだけだったに違いない。それだけ自信を持って臨んだ一戦であり、自分たちの実力の高さを感じていたのだろう。それは赤石のこんな言葉にも表れていた。
「東京は僕自身が初めてのパラリンピックということもあって、決勝という舞台でアメリカと対戦できるなんて光栄に感じていたし、もちろん勝ちにはいっていたけれど、思い切ってぶつかっていくだけと、まさにチャレンジャーという感じでした。でも、今回は絶対に勝つとしか考えていませんでした。それこそ目標のトップ5がかかっているゲームでしたので、勝たなければいけないという思いで臨みました。だから本当に悔しかったです」
アメリカはもはや、日本にとって“乗り越えたい壁" ではなく“乗り越えなければならない壁"となったのだ。憧れではなく、ライバルの存在へーー。そのことを印象付ける一戦でもあった。そして悔しさこそが、選手たちの今後の成長を促す原動力となるはずだ。それだけに今後の男子日本代表からますます目が離せない。
(文・斎藤寿子/撮影・村上智彦、玉城萌華)
【車いすバスケットボール】
一般のバスケットボールとほぼ同じルールで行われる。ただし「ダブルドリブル」はなく、2プッシュ(車いすを漕ぐこと)につき1回ドリブルをすればOK。
選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から1.0~4.5までの8クラスに分けられている。コート上の5人の持ち点の合計は14点以内に編成しなければならない。主に1.0、1.5、2.0の選手を「ローポインター」、2.5、3.0、3.5を「ミドルポインター」、4.0、4.5を「ハイポインター」と呼ぶ。
コートの広さやゴールの高さ、3Pやフリースローの距離は一般のバスケと同じ。障がいが軽いハイポインターでも車いすのシートから臀部を離すことは許されず、座ったままの状態で一般のバスケと同じ高さ・距離でシュートを決めるのは至難の業だ。また、車いすを漕ぎながら、ドリブルをすることも容易ではなく、選手たちは日々のトレーニングによって高度な技術を習得している。
ジャンプはないが、ハイポインターが車いすの片輪を上げて高さを出す「ティルティング」という技がある。ゴール下の激しい攻防戦の中、ティルティングでシュートをねじ込むシーンは車いすバスケならではの見どころの一つだ。