
若い日本の攻撃を引っ張り、経験豊富な韓国の守備にも引かずゴール下へ切り込む赤石竜我
予選リーグを1位通過し、準々決勝ではフィリピンに88-16と圧勝した男子日本代表は、21日には韓国との準決勝に臨んだ。世界選手権から5人を入れ替え、若手が中心の日本に対し、韓国は経験豊富なベテラン勢がそろっていた。その韓国を第1Qから大きくリードした日本は一度も逆転を許すことなく、64-39と快勝し、決勝進出を決めた。
赤石が北風、丸山に贈った言葉「2人の力が必要」
チームの危機を救い、勝機をもたらした“プレス部隊"。そこには仲間を鼓舞し、その期待に応えようと奮闘した、チームメイト同士の深い絆があったーー。
1Q、赤石竜我(2.5)の速攻からの得点で先制した日本は、快調に得点を伸ばし、フィールドゴール(FG)成功率は60%にのぼった。翻って韓国は日本のディフェンスに苦戦を強いられた。日本がインサイドケアを徹底したことで、韓国は強みを発揮することができず、アウトサイドからのタフショットを余儀なくされた。そのためFG成功率はわずか25%にとどまった。攻防にわたって完全に流れを引き寄せた日本は、1Qを19-8とダブルスコア以上の大差をつけてリードした。
ただ、その裏で日本はある不安材料を抱えていた。チームの中枢を担う一人である鳥海連志(2.5)が1Qですでに2つのファウルを重ねていたことだった。これが、その後の展開にどう影響するのか。試合の行方に注目が置かれた。
そんななか迎えた2Q、出だしから日本が再び主導権を握った。オフェンスでは岩井孝義(1.0)にも得点が生まれ、これでスタートの5人全員が得点するという理想的な攻撃を披露。ディフェンスでも韓国に一度も連続得点を許すことはなく、反撃の隙を与えなかった。

1Qから2つのファウルを抱えながらも、チーム最多の10アシストで日本の攻撃を動かした鳥海連志
ところが、そんな矢先に潮目が変わりかねない事態が起きた。2Qの3分半過ぎ、鳥海がオフェンスファウルを取られ、累計ファウルが3つを数えたのだ。ここで京谷和幸ヘッドコーチ(HC)は鳥海をベンチに下げる決断をすると同時に、ある重要なカードを切った。プレスディフェンスが持ち味のラインナップ“プレス部隊"だった。
スターティング5のうち赤石を残して4人が一気に交代となり、コート上に現れたのは、キャプテン川原凜(1.5)、丸山弘毅(2.5)、古澤拓也(3.0)という世界選手権メンバーに加えて、今大会が日本代表デビュー戦となった北風大雅(4.5)。京谷HCも赤石も、今大会のカギを握っていると考えていたラインナップだ。そして赤石はこの日の昼間、丸山と北風の部屋を訪れ、2人に熱いメッセージを贈っていた。
「2人とも今大会はまだあまりいい形でできていなくて、ちょっとモヤモヤしていた部分があったと思うので、“2人の力が本当に必要になるから"と発破をかけたんです。合宿の時の動画を3人で振り返りながら、僕が2人に言ったのは“変に賢く、うまくやる必要はなくて、気持ちで戦った方が力を発揮できるから"ということ。それでもし取り逃すことがあっても、そこは自分がフォローするからと伝えました」
そんなチームメイトからの言葉に、丸山も北風も期するものがあったのだろう。彼らが攻防にわたって本領を発揮したことで、“プレス部隊"は5人の歯車がかみあったバスケットを展開。交代してすぐには連続失点を喫したものの、8秒バイオレーションを奪ったあとは完全に主導権を握った。オフェンスでは赤石のほか丸山、北風も得点を挙げるなどした日本は、結局、鳥海がベンチに下がった後の約6分半を8-4とプラスで終えた。この2Q後半の戦いについて、京谷HCはこう語る。
「“プレス部隊"の使いどころというのは試合のなかで非常に重要ではあるものの、今大会はなかなかうまくいっていなかった。ただ話し合いを重ねているということも聞いていたので、彼らに託してみようと。もともと2Qの終わりに使うことを考えていたものの、予定よりも長い時間帯になってしまって彼らもしんどかったと思います。それでもプラマイゼロどころか、プラスで終えてくれた。北風と丸山も本当にいい働きをしてくれました。あの2Qが今日の一番のキーだったと思います」
赤石もまた、チームメイトの活躍を喜んだ。
「まずは交代で入ってきた4人が、それまでの試合のテンポにしっかりとついてきてくれたことが大きかったと思います。そして北風も丸山もシュートも入ったし、思い切りの良さを出してくれました。彼らがしっかりと仕事をしてくれたことが大きかったし、その2人を僕や古澤、川原がフォローするというところでうまくかみあっていたなと。チームにとってもあのユニットが機能したのは、本当に大きな成果だったと思います」

“プレス部隊"の一員として得点を挙げた丸山弘毅。韓国のブロックをかわし、思い切りよくシュートを放った
アジアの頂点をかけイランとの全勝同士の決戦へ
最大の危機を乗り越え、37-18とさらにリードを広げた状態で試合を折り返した日本は、3Qこそ9-10とほぼ互角の戦いとなったものの、4Qには今大会が初代表ながら持ち前の得点力を遺憾なく発揮し、鳥海からも「MVP級の活躍」と称される岩田晋作(4.5)が8得点と躍動。同じく初代表の塩田理史(3.0)や谷口拓磨(2.0)も得点を挙げるなどして韓国を突き放した。
これまで日本にとって韓国は一筋縄ではいかない相手であり、苦戦することも少なくなかった。実際2024年のアジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC)では1勝1敗という結果だった。24年当時と12人中8人が同じメンバーであることから、今大会にはフルメンバーで臨んでいるとみられ、その韓国に若手中心の日本が快勝したことは、非常に大きな価値をもつ。
さて、ここまで一つも取りこぼすことなく、5戦全勝と快進撃を見せている若き日本代表が最後に迎える相手は、同じく無傷の5連勝と勢いに乗るイランだ。サヤリ・モハメドハッサン(4.0)、アブディ・モルテザ(3.0)に加えて、ハーディアズハル・オミッド(4.0)が2024年1月のAOC以来の代表復帰したイランは、インサイドに強い選手がそろっている。京谷HCも「大きな選手が多いチーム」と高さを警戒する。一方で「(アウトサイドの)シューターもいるので、そこをどうつぶしていくか」がカギを握ると踏んでいる。
間違いなく今大会最強の相手であるイランに、若い日本がどう挑むのか。アジアの頂点をかけた決戦は、23日18時半にティップオフだ。
(文・斎藤寿子/撮影・菅澤一生)
【車いすバスケットボール】
一般のバスケットボールとほぼ同じルールで行われる。ただし「ダブルドリブル」はなく、2プッシュ(車いすを漕ぐこと)につき1回ドリブルをすればOK。
選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から1.0~4.5までの8クラスに分けられている。コート上の5人の持ち点の合計は14点以内に編成しなければならない。主に1.0、1.5、2.0の選手を「ローポインター」、2.5、3.0、3.5を「ミドルポインター」、4.0、4.5を「ハイポインター」と呼ぶ。
コートの広さやゴールの高さ、3Pやフリースローの距離は一般のバスケと同じ。障がいが軽いハイポインターでも車いすのシートから臀部を離すことは許されず、座ったままの状態で一般のバスケと同じ高さ・距離でシュートを決めるのは至難の業だ。また、車いすを漕ぎながら、ドリブルをすることも容易ではなく、選手たちは日々のトレーニングによって高度な技術を習得している。
ジャンプはないが、ハイポインターが車いすの片輪を上げて高さを出す「ティルティング」という技がある。ゴール下の激しい攻防戦の中、ティルティングでシュートをねじ込むシーンは車いすバスケならではの見どころの一つだ。