
男子50m自由形(S4)で金メダルを獲得し、表彰式で声援に応える鈴木孝幸。アジアパラでは通算11個目の金メダルとなった
10月19日、名古屋市総合体育館(虹のプール)でパラ水泳の第1日目の競技が行われた。パラ水泳界の「レジェンド」である鈴木孝幸(GOLDWIN)が男子50m自由形(S4)で金メダルを獲得するなど、日本代表は金3個、銀1個、銅5個を獲得。一方でメダルには届かなかったが、山田龍芽(SM6、宮前ドルフィン)や都甲万結(SM9、大分パラ水連)ら、中学生パラスイマーも躍動した。
ぶっつけ本番で結果を出した
2位の選手に5秒以上の差をつける貫禄の泳ぎだった。鈴木はパラ水泳を長きに渡ってけん引している選手だ。パラリンピックには過去6大会に出場し、3つの金を含む15個のメダルを獲得。アジアパラでもこれまで10個の金メダルを手にしており、これが11個目となった。
ただ、ベストコンディションで臨んだレースではなかったようだ。実は大会直前に体調を崩していた。鈴木は予選のとき「1週間以上は泳げていなかった」と明かすと、言葉にするのをややためらいながら「練習を再開したのは(パラ水泳1日目の)今日です」と続けた。
もちろん、パラ水泳の第一人者は、本番直前にコンディションを崩したのはよしとはしていない。それでも「ぶっつけ本番」で挑んだなかで、きっちりと結果を出す。その裏には「(先を見据えずに)1年1年を必死にやっているだけ」と言える年齢(39歳)まで積み上げてきたものがあるからだろう。
他方、様々な大会に出場してきた鈴木にとっても、今回の日本開催は特別な感情があるようだ。
「運営に関わっている方たちが、日頃、国内大会でも顔見知りの人たちで、一瞬、国内大会かな?という雰囲気がありつつも、一緒に戦っている選手とかを見ると、やっぱり国際大会だな、と。アットホームな感じと、国際大会ならではの緊張感が入り混じっていて、とても楽しい大会だと思っています」
自国開催だから襲いかかる重圧
女子は2人が金メダルを獲得した。S12の辻内彩野(三菱商事)とS14の木下あいら(個人)だ。辻内は100m自由形決勝で、自分より障害が1段階軽いS13の選手と対戦しながら、1分00秒84とS12の大会新記録をマークした。
辻内は「最近のレースでは前半に離されるのが課題になっていたので、今回は2、3番手で前半を進み、最後の25mで力を出し切って追い抜く作戦だった。それが狙い通りにはまった」と振り返る。
辻内は前回大会、種目不成立で出場できなかった。今回はクラス11から13の合同レースとして実施された。「無事にレースができたのが嬉しい」と喜んだものの、自国開催であることが、大きなプレッシャーになっていたという。東京パラでは記録を更新したものの、自国でメダルを取れなかったことも影響していた。

女子100m自由形で前半を2、3番手で進み、最後の25mで追い抜いた辻内彩野。S12の大会新記録となる1分00秒84で金メダルを獲得した
今回こそは…辻内は前の晩から試合当日の朝まで、泣くほどに緊張していたという。
そんな辻内を支えてくれたのが、試合会場に来られなかったコーチや「彼」の言葉であり、パリ大会にも足を運んでくれた母と妹の応援だった。
8年前のジャカルタ大会では銅メダル。今回、一番美しい色のメダルを首にかけられ、場内に「君が代」が流れたとき、辻内は深い感慨に包まれたという。
いきなり自己ベストを出した中学生
もう1人の女子の金メダリスト・木下も女子200m自由形決勝で大会新記録(2分09秒80)をマークした。難病から復帰した木下は「(大病をしても)弱気にならず、頑張る姿勢を競技初日から示せた」と胸を張った。
パリパラで女子200m個人メドレーの銅メダリストになった木下は、開会式でパラのレジェンドたちとともに入場した。開会式に参加するメンバーに選ばれたことに戸惑いもあったようだが、「推薦を光栄に感じ、貴重な機会を楽しんだ」と頬を緩めた。
難病を乗り越えた木下が大切にしているのは、何があっても自分を信じること。競技初日に金を取り、目標としている5種目での金メダルに向かって好スタートを切った。

レース後、プールの中から笑顔で手を突き上げる木下あいら。女子200m自由形(S14)を2分09秒80の大会新記録で制した
競技初日には山田、都甲、そして佐藤璃來(S14、個人)の3人の中学生も出場した。男子200m個人メドレー(SM6)に出場した山田は初々しい表情で「大会の規模や歓声が大きく、それで自分の泳ぎを見失ってしまったんですが、隣のレーンの選手の泳ぎを真似したところ(修正ができ)、自己ベストにつながりました」と言うと、こう伝えてくれた。
「ユースの大会ではない、大人の人も出ている大きな大会に、中学生の自分が出られたことは驚きでもありましたが、本当に嬉しかったです」
若い力の台頭はパラ水泳界にとっても喜ばしいことだろう。パラ水泳界全体を考えている鈴木もそれを願っている。
「今後ますますパラ水泳が発展していくには、若い選手が必要です。今20代の選手もそうですし、10代の選手が出てくるのは非常に嬉しいことだと思っています」
(文・上原伸一/撮影・村上智彦)
【パラ卓球】
カテゴリーは「車いす」「立位」[峯1.1]「知的障がい」があり、「個人戦」(シングルス)と「団体戦」(ダブルス1試合、シングルス2試合)があり、試合は1ゲーム11点先取で、3ゲームを先に取った方が勝ちとなる。いずれも男女別に行われるが、「車いす」と「立位」は、障がいの種類や程度によってさらにクラス分けされ、順位を争う。
卓球台のサイズやネットの高さ、ボールやラケットなどの用具は、一般の卓球と同じ。ルールもほとんど変わらない。ただし、車いす選手のサービスは、相手コートで一度バウンドし、エンドラインを越えない場合は「レット(ノーカウント)」となり、やり直しとなる。また、車いすのダブルスでは、センターラインを超えて移動することはできないため、レシーバーがサービスをリターンした後は、どちらの選手が打ってもOK。
障がいの種類や程度によって、プレースタイルはさまざま。たとえば車いすの選手は、左右に素早く動くことが難しいため、卓球台の近くでプレーすることが多い。そのため、近距離でのスピーディなラリーが展開される。また、世界には足でトスを上げ、ラケットを口でくわえて打つ、両腕欠損の選手もいる。