Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア
2026年9月19日

2026 IWBF 車いすバスケットボール世界選手権大会

男子日本代表、堅固な守備力にプラスアルファとなったオフェンスでの“個の力"

相手ディフェンスの隙を逃さず、巧みなチェアワークで展開を図る川原凛 | 男子日本代表、堅固な守備力にプラスアルファとなったオフェンスでの“個の力”|2026 IWBF 車いすバスケットボール世界選手権大会 | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

相手ディフェンスの隙を逃さず、巧みなチェアワークで展開を図る川原凛

9月9日~19日の11日間にわたってカナダ・オタワで開催された車いすバスケットボールの世界選手権。2大会ぶりの出場となった男子日本代表は、予選リーグを3戦全勝して1位で通過した。決勝トーナメントでは準々決勝でイギリス、5位決定戦でアメリカに惜しくも敗れ、目標とした“世界のトップ5"にはあと一歩及ばなかったが、過去最高の6位。強豪国とも互角に渡り合い、世界トップクラスの実力を証明した。

飛躍的進化で厚みが増したオフェンス力

予選リーグでの快進撃は、まさに「ディフェンスで世界に勝つ」というスローガンを体現したことによるものだった。初戦のポーランド戦では、2Q途中から切り替えたプレスディフェンスで流れを一転させ、最大18点差を逆転するという劇的勝利を呼び起こした。さらに最大のヤマ場だったヨーロッパ王者スペインとの第3戦では、初戦で課題となっていたフラットディフェンスが機能。高さという相手の強みを封じ、思うような攻撃をさせなかった。細部にまでこだわりながらより精度を高め、磨きをかけてきた成果が如実に表れていた。

一方、大きな変化が見られたのはオフェンスで、これまで課題の一つとされてきた“個の力"の部分での躍進が目立った。これまでも安定感抜群のシュート力を見せてきたのが、香西宏昭(3.5)だ。国際大会ではランキング入りすることも珍しくなく、京谷和幸ヘッドコーチ(HC)からもこれまで彼の貢献ぶりを称えるコメントは何度も聞かれた。

たとえば2024年1月と25年11月のアジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC)のスタッツを見ると、香西の得点力はチーム内で頭一つ抜けていたことがわかる。24年のAOCではトップ10入りは逃したものの、全8試合でチーム最多の93得点。1試合平均は11.6点と、チーム唯一の2ケタを誇った。チーム2番目が66得点、平均8.3得点だったことからも香西の存在の大きさがかわかる。また日本が準優勝し、世界選手権の出場権を獲得した昨年のAOCでは、全8試合で118得点、1試合平均14.8得点をマーク。それぞれ5位、9位とランキング入りも果たした。
抜群の安定感を誇るシュート力で得点を重ね、日本のオフェンスを支える香西宏昭 | 男子日本代表、堅固な守備力にプラスアルファとなったオフェンスでの“個の力”|2026 IWBF 車いすバスケットボール世界選手権大会 | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

抜群の安定感を誇るシュート力で得点を重ね、日本のオフェンスを支える香西宏昭

38歳と年齢的にはベテランの域に達している香西だが、さらに進化を遂げており、安定感は増す一方だ。今大会も(不戦勝の準々決勝を除く)6試合中5試合で2ケタ得点。特に予選リーグ初戦はチーム得点の約4割の29得点、フィールドゴール(FG)成功率は59.1%を誇り、日本の快進撃の火付け役となった。3ポイントシュートはチーム最多の8本を決め、堂々のランキング5位となった。

しかし、香西に頼りがちだったこれまでとは異なり、今大会の日本には得点源に厚みがあった。なかでも大きく成長した姿を見せたのが、鳥海連志(2.5)だ。これまでは大会期間中に波があり、本人も「いい時と悪い時があり、まだ世界からはシュート力がある選手とは見られていない」と課題としてきた。実際1年前のAOCでは、大会前半は1ケタ得点が続いた。特に初戦のオーストラリア戦はFG成功率14.3%と低迷。しり上がりに調子を上げ、準決勝のイラン戦ではチーム最多の26得点をマークしたが、全試合でのFG成功率は34.9%にとどまった。

翻って今大会は、コンスタントに得点を重ねた。全6試合で2ケタ得点を挙げ、そのうち3試合はチーム最多を誇った。40分間フル出場することも多かったなか、最後のアメリカとの5位決定戦でもチーム最多の29得点、FG成功率48.0%という数字を残したところに、鳥海の大きな成長の跡が見られた。公式戦の得点部門では初のランキング入りを果たし、総得点115は10位、2ポイントシュートでの51得点は堂々の5位に入った。

また、秋田啓(3.5)はまだ本数こそ少ないものの3ポイントシュートを高確率で決め、武器にしつつある。チーム最多の18得点を挙げた予選リーグ第2戦のコロンビア戦では、3ポイントを2本いずれもネットに沈め、FG成功率88.9%という驚異的な数字を残した。全試合でのFG成功率も鳥海の53.1%、香西の51.2%を凌ぐ52.8%と抜群の安定感を見せ、躍進を遂げた。

川原と赤石がコートに刻んだ存在感

また得点以外にも、存在感を示した選手がいた。川原凜(1.5)と赤石竜我(2.5)だ。キャプテンを務める川原は、日本国内でも小柄なローポインターでありながら、サイズとパワーを兼ね備えた海外のハイポインターにもしっかりと対応するだけのディフェンス力が光った。スキルの高さはもちろん、フィジカルも強く、自分よりも倍以上にサイズのある海外勢相手にも簡単には押し負けることはない。

そのため川原が入ったラインナップにはディフェンスの穴がない。京谷HCも「世界に勝つためには絶対に欠かすことのできない選手の一人」と語っている通り、日本のディフェンスの強さは川原がいるからこそ成立していると言っても過言ではないだろう。京谷HCが地元メディアからインタビューを受けた際にも川原についての質問があったほど、彼の存在の大きさは海外からも注目されている。

今大会、不戦勝だった決勝トーナメント1回戦を除く6試合中、出だしの1Qで相手にリードを奪われたのはたった一度、初戦のポーランド戦だけだった。そして、川原がスタートで出なかったのも一度だけで、やはり初戦だったのだ。これは単なる偶然ではないだろう。いかに川原のディフェンスが、チームに大きな力をもたらしているか、その証でもあるはずだ。

そして、6試合中4試合で40分間フル出場と強靭なスタミナでチームに貢献したのが赤石だ。銀メダルを獲得した東京2020パラリンピックまでは、同じクラス2.5の鳥海と入れ替わることが多く、赤石自身も「疲労がたまっている連志を少しでも休ませられるように自分が頑張りたい」と語っていた。しかし、今では鳥海とともにスターティングメンバーの一人となり、今大会も1試合平均のプレータイムは鳥海の38.5に次ぐ38に及ぶほどにまで躍進を遂げた。

オフェンスではポイントガードの役割も担うようになった赤石は、トップのポジションに入ることも少なくない。これによって得るメリットは、実はオフェンスだけではない。ディフェンス力のある赤石がトップにいることで、攻守が切り替わった際のセーフティとなっているのだ。

その効果は決して小さくはなかったはずだ。昨年のアジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC)では、日本はオーストラリアやイランに速攻から得点されることも少なくなく、オーストラリアについては決勝では12得点を奪われた。一方、今大会では最多はアメリカの4得点で、イギリスにおいては一度も速攻からの得点を許さなかったのだ。
ポイントガードとして攻撃を組み立てつつ、セーフティとしてもチームの堅守を支えた赤石竜我 | 男子日本代表、堅固な守備力にプラスアルファとなったオフェンスでの“個の力”|2026 IWBF 車いすバスケットボール世界選手権大会 | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

ポイントガードとして攻撃を組み立てつつ、セーフティとしてもチームの堅守を支えた赤石竜我

来年、ロサンゼルスパラリンピックの予選会を兼ねて行われるAOCでは、今大会で世界一に返り咲いたオーストラリアの速攻をどれだけ抑えられるかも重要なポイントとなる。特に今大会MVPに輝いた若きエース、ジェイレン・ブラウンを止められるかがカギを握るだけに、赤石との“競走"が見どころの一つとなりそうだ。

赤石は、今シーズンもドイツ1部リーグのケルン99ersでプレーする。さらに今月には川原もチームメイトになることこが発表された。同チームの指揮をとるのは、車いすバスケットボール界の名将の一人で、2018年世界選手権では男子イギリス代表を初優勝に導いたハジ・バニア。彼のヘッドコーチ就任がケルンに加入する最大の理由だったという赤石は、彼の存在の大きさをこう語る。

「僕が“世界一になりたい"と言った時、ハジはその言葉を真摯に受け止めて“協力するよ"と言ってくれました。個人練習にも付き合ってくれるほど、愛情を持って接してくれるんです。この2年間での成長は、間違いなくハジのおかげです」

その赤石とともにハジのもとでプレーする川原もまた、さまざまなことを吸収し、大きく成長するに違いない。彼らだけでなく、スペインリーグでプレーする鳥海や髙柗義伸(4.0)など、今シーズンも海外リーグに挑戦する選手は少なくない。もちろん国内に残る選手たちも彼らに「負けたくない」という気持ちでトレーニングに励むはずだ。
10月のアジアパラ競技大会が終われば、日本代表は一度解散し、再び“仲間"から“ライバル"へと戻って代表の座を争うことになる。お互いを刺激しあう競争心こそが、日本代表のチーム力を押し上げていくに違いない。そして、個の成長を組織力につなげられるかがカギを握る。果たして、海外組と国内組が融合した日本代表はどんなバスケットを見せるのか。4年前の悔しさを晴らす決戦の時は、1年後に迫っている。

(文・斎藤寿子/撮影・村上智彦、玉城萌華)
【車いすバスケットボール】
 一般のバスケットボールとほぼ同じルールで行われる。ただし「ダブルドリブル」はなく、2プッシュ(車いすを漕ぐこと)につき1回ドリブルをすればOK。
選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から1.0~4.5までの8クラスに分けられている。コート上の5人の持ち点の合計は14点以内に編成しなければならない。主に1.0、1.5、2.0の選手を「ローポインター」、2.5、3.0、3.5を「ミドルポインター」、4.0、4.5を「ハイポインター」と呼ぶ。
コートの広さやゴールの高さ、3Pやフリースローの距離は一般のバスケと同じ。障がいが軽いハイポインターでも車いすのシートから臀部を離すことは許されず、座ったままの状態で一般のバスケと同じ高さ・距離でシュートを決めるのは至難の業だ。また、車いすを漕ぎながら、ドリブルをすることも容易ではなく、選手たちは日々のトレーニングによって高度な技術を習得している。
ジャンプはないが、ハイポインターが車いすの片輪を上げて高さを出す「ティルティング」という技がある。ゴール下の激しい攻防戦の中、ティルティングでシュートをねじ込むシーンは車いすバスケならではの見どころの一つだ。
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