2022年3月5日

2022パラ水泳春季記録会【1日目】
11選手が世界選手権派遣記録突破！パラ水泳春季記録会1日目

100メートルバタフライと100メートル平泳ぎの2種目で世界選手権派遣標準記録を突破した山口尚秀

3月5日、静岡県立水泳場（静岡市）で「2022パラ水泳春季記録会兼マデイラ2022 WPS世界選手権日本代表選手選考戦」が行われた。
2日間にわたり行われる今記録会は、6月にポルトガルで開催される世界選手権の日本代表選手選考戦を兼ねており、また10月に中国で行われるアジアパラ競技大会の代表選考においての対象記録にもなることから重要な記録会となる。

うららかな春の陽ざしが差し込むプール。
パラスイマーたちの熱のこもったレースが繰り広げられるなか、東京パラリンピックから半年、次のパリ大会まで2年半という「いま」を象徴するような、さまざまな思いが交差した。

「（今日行われた）100メートルバタフライと100メートル平泳ぎで派遣標準タイムをきれて達成感を感じている」と声を弾ませたのは、S14（知的障がい）クラスの山口尚秀（四国ガス）。
世界新記録で東京パラリンピック・金メダルを獲得した100メートル平泳ぎ、体格の大きさを生かした豪快な泳ぎは健在だった。大会後にストロークとキックを大きくし回数を少なくしたなかで記録を出せたことに手応えを感じた。
世界選手権に向けては、「今の自分にできることに精一杯取り組んでいきたい。ほかの種目でも世界レベルに追いつける選手でありたい」と意気込みを語った。

100メートル平泳ぎで1分28秒86の記録を出し、派遣標準記録を突破した宇津木美都

SB8クラス（運動機能障がい）の宇津木美都（大阪体育大学）は100メートル平泳ぎで派遣標準記録を突破し、この記録会にかけた思いを語った。
「今回の世界選手権選考戦は“3度目の正直"という気持ちで臨んだ。1回目の世界選手権（2017年）は開催地のメキシコ地震でなくなり（※）、２回目の2019年は代表入りすることができなかったので、今回リベンジに燃えていた。派遣標準をきれてほっとしている」
東京パラリンピックは同種目で6位入賞を果たしたものの、「この結果に満足していてはパリでのメダル獲得は厳しい」と気を引き締める。
「まずは今年中に自己ベストを更新したい」と、最後は持ち前の明るさで締めくくった。
（※大会は地震により2カ月延期。日本選手団は安全面や競技の調整等の理由から派遣を断念）

隣のレーンで競い合う木村敬一(手前)と富田宇宙(右奥)

そして、東京大会・100メートルバタフライで涙のワンツーフィニッシュを飾ったS11クラス（全盲）の木村敬一（東京ガス）と富田宇宙（日体大大学院）。
派遣標準記録を3秒あまり上回る泳ぎを見せた木村は、久しぶりのレースでいろいろな選手と会えて「いい時間だった」と笑みをのぞかせたが、その表情は少しくもっているように映った。
「今日は記録を残すことが目標だった。トレーニング自体まだしっかりできていない中ではよく泳いだと思う」
金メダルにこだわり、金メダルだけを追い求めていたころとは「同じ情熱ではやっていない」と現在の心境を率直に語る。
「ただ、冷めきったわけでもない。金メダルを獲って水泳というものと改めて向き合えている。いろいろな世界を見られるようになって、その中で『自分がどのくらい水泳をがんばりたいのか』と思いながら泳いでいる」

昨年秋にはスペインに渡り、練習に励んでいた富田

木村と「今後もお互い切磋琢磨していけたら」と語る富田は、「自分の泳ぎには改善の余地がある」と昨年11月、スペインに渡った。
言葉の壁に悩まされながらも、練習への取り組み方に刺激を受けた。
「日本では、一本一本何秒でくるとかどれくらいのインターバルでいくとか、数字を意識して泳ぐことが多かったが、むこうのトレーニングでは体が水中でどういった位置にあるか、水をつかむときにどういう角度なのか、そういうことを中心に取り組んだ。（時期的なものもあるが）日本に帰国してからもタイムよりも、細かいところに感覚を研ぎ澄ませながら練習していくことが増えた」
この日、派遣標準を4秒以上上回るタイムをマークした富田。
「自己ベストを出していきたい。パラリンピックが終わってもその思いに何も変わりない」と揺るがない競技への思いを口にした。

記録会には今年5月にブラジルで開催されるデフリンピック日本代表選手も参加し、無観客での開催とはなったが、会場はライブ配信を通して観戦した人たちの大きな声援が届くような熱気に包まれた。

男女合わせて11名の選手が世界選手権派遣標準記録をきった第1日目の春季記録会。
第2日目の6日には、100メートル自由形、50メートル平泳ぎ、400メートル自由形、50メートル背泳ぎと150/200メートル個人メドレーの各種目が行われる。

【マデイラ2022 WPS世界選手権　派遣標準記録突破選手】
鈴木　孝幸（S4）50メートル自由形
木村　敬一（S11）50メートル自由形、100メートルバタフライ
富田　宇宙（S11）50メートル自由形、100メートルバタフライ
日向　楓（S5）50メートルバタフライ
山口　尚秀（S14）100メートルバタフライ、100メートル平泳ぎ
松田　天空（S14）100メートルバタフライ
辻内　彩野（S13）50メートル自由形
由井　真緒里（S5）200メートル自由形
小野　智華子（S11）100メートル背泳ぎ
宇津木　美都（SB8）100メートル平泳ぎ
芹澤　美希香（SB14）100メートル平泳ぎ

【日本新記録】
茨　隆太郎（JDSA：聴覚障害）50メートルバタフライ　記録：00:25.41

（文・張理恵、撮影・湯谷夏子）

【水泳】
　大きく分けて「肢体不自由」「視覚障がい」「知的障がい」のカテゴリーがあり、それぞれ障がいの程度に応じてクラスが分かれてタイムを競う。
使用するプールやスタート台、泳法（自由形、背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライ）は、一般の水泳と同じ。ただし、障がいを考慮して、一部ルールを変更して行われている。たとえば、視覚障がいのクラスでは、ターンやゴールの際にプールの壁に衝突しないように、コーチが「タッピングバー」と呼ばれる棒で選手の体をタッチして合図をする「タッピング」が行われる。また、両腕が欠損しているなど、障がいによってスタート時に体勢が不安定な場合は、コーチなどによって体を支えられることが認められている。
　選手はそれぞれ自分自身の体の状態にあった泳ぎ方を開発し、さまざまな工夫が凝らされている。たとえば、視覚障がいの選手は、日常の練習で方向をつかむ感覚を養うとともに、レーンロープを頼りにして、少しでもロスを少なくしようと努めている。