
涙をこらえきれず、パートナーの宇佐美慧(右)と抱き合う川野将太(左)
10月22日、名古屋市東山公園テニスセンターで行われているアジアパラ競技大会の車いすテニスは競技4日目を迎え、クアードダブルスの川野将太・宇佐美慧組、男子ダブルスの小田凱人・荒井大輔組が金メダルに輝いた。女子シングルスでは、上地結衣が銀メダル、大谷桃子が銅メダルを獲得した。
クアードの川野将太・宇佐美慧組が悲願の金メダル獲得
センターコートで行われたクアードのダブルス決勝。川野将太・宇佐美慧組がタイのペアを、6-4、7-6で破り優勝を果たした。
第2セットでタイブレイクを制し勝利を収めると、川野と宇佐美は肩を抱き合い喜びを分かち合った。コート上で行われたインタビューで、川野が言葉をつまらせながら「アジアパラ出場は3回目で、なかなか金メダルが獲れなくて…ようやく獲れました」と涙を浮かべると、大きな拍手が鳴り響いた。そして宇佐美は「拍手や応援が最後まで伝わってきた。(観客と)みんなで獲った金メダルだと思う。皆さんも、おめでとうございます!」と観客席を見渡しながら感謝の言葉を述べ、会場は温かい空気に包まれた。
「ずっと金メダルを目指してがんばってきたので、ようやく獲ることができて肩の荷が下りた。こんな最高な瞬間を経験できてすごくうれしい」と万感の思いで語った川野。
決勝という大舞台も、「プレッシャーはなかった。一球一球に自分と、パートナーと、応援の力を入れていけた」という。
対戦したタイのペアに対しては、走れるし強いという印象があったと話すが、2019年にダブルスを組み、ともに築き上げてきたコンビネーションで、それを跳ね除けた。
さらに大きな力となったのが、観客の応援だった。「(会場の雰囲気に)相手の方が緊張していたので、気持ちでもリードできた。センターコート内に追い風がどんどん吹いてきた。日本カラー一色だった」。宇佐美は試合中の様子をそう振り返る。
ある強い思いを持って決勝の舞台に立った宇佐美。
「どうしてもこの大会で結果を残して、日本の皆さんにクアードクラスというものをもっと知ってほしかった。そうするには何をしないといけないのか。やはりメダルを獲ることだと思った。最高の色のメダルを獲ると自分に言い聞かせてプレーした。こうして兄貴の川野選手と一緒にメダルが獲れて本当にうれしい」
全身全霊をかけて戦う2人のプレー、2人の思いは、観客の心をつかんだ。
表彰式での割れんばかりの拍手と歓声が、それを証明していた。

互いを「かけがえのないパートナー」「憧れの先輩」と呼び合う川野将太(左)と宇佐美慧(右)が、表彰台で金メダルを掲げる
男子ダブルスは小田凱人・荒井大輔組が完勝し金メダル獲得
男子ダブルス決勝は、小田凱人・荒井大輔組が韓国ペアを6-0、6-0で封じ込め、堂々の金メダルに輝いた。
時折、強風が吹くコンディションだったが、「これまでの3試合の中で内容が一番よかった」と荒井が語るように、サーブにリターンエース、ドロップショットと、相手を揺さぶりながらも観客を魅了するパフォーマンスでポイントを重ねていった。
「動きもよかったし荒井選手のプレーにキレを感じたので、これは(金メダルを)狙えると思った。デュースを握られる場面もあったけど、うまくまとめられた。日本の強さを見せられた」と小田は堂々と語った。
地元・愛知県出身の小田。コート上のインタビューでは「車いすテニスを始めたときからずっと教えてもらった人が会場に見に来てくれて、金メダルという形でフィニッシュすることができて、すごくうれしい。皆さんに育ててもらってここにいるので、すごく感謝しています。ありがとうございます」と笑顔を見せた。
この日の午前中に行われた男子シングルスの準決勝でも6-0、6-0のストレート勝ちで決勝に駒を進めた小田は、23日、今大会2個目の金メダルを狙う。

「ここ3試合でベストの内容」と荒井が振り返った決勝。ボールを打ち返す小田凱人(左)と荒井大輔(右)
女子シングルスは上地結衣が銀メダル、大谷桃子が銅メダルを獲得
女子シングルスでは、上地結衣が中国のLI Xiaohuiに1-6、6-7で破れ、銀メダルを獲得した。
大会前の体調不良により、万全な状態ではなかった。「(今大会の)試合が始まってからもなかなか調子が上がらない」中で、決勝では、リターンにサーブ、すべてにおいて迷いながら打っているところがあったといい、「最後までなかなか自分が納得できるショットが出せなかった」と自身のプレーを振り返った。
悔しさの残る戦いにはなったが、上地は敗れたライバル選手にも思いを寄せた。
「自分のパフォーマンスだったり、自分が勝てなかったというところで、自分自身に対して思うところは本当にたくさんあるが、優勝したあとのLI Xiaohui選手の様子を見ていると『おめでとう』という気持ちの方が大きかった。彼女の人柄がそう思わせてくれる部分もあるが、アジアが強くなるために、自分だけじゃない、車いすテニスを盛り上げていく人が(アジアで)出てきてくれたことが純粋にうれしいと表彰式のときに思わせてもらえた。アジア全体でがんばっていきたい」

「納得のいくショットが最後まで打てなかった」と振り返った決勝で、ボールを追う上地結衣
決勝に先立ち行われた3位決定戦は、髙室冴綺と大谷桃子による日本人対決となり、6-0、6-1で勝利した大谷が銅メダルを獲得した。
車いすテニス競技最終日の23日には、男子シングルス、クアードシングルス、そして女子ダブルスの決勝と3位決定戦が行われる。
男子シングルスでは、決勝に小田、3位決定戦に荒井が出場。クアードのシングルス決勝には宇佐美が出場しダブルスとの2冠を目指す。また、女子ダブルスには、決勝に上地・大谷ペア、3位決定戦に髙室・田中愛美が出場する。車いすテニス日本代表が、大会のラストを盛り上げる。
(文・張 理恵/撮影・村上 智彦)
【車いすテニス】
コートの広さやネットの高さ、使用するボールやラケットはすべて一般のテニスと同じ。ルールもほぼ変わらない。唯一、返球は「2バウンド」まで認められているが、パラリンピックに出場するトップクラスの男子は1バウンドで打ち返すことがほとんどだ。
種目は「シングルス」と「ダブルス」で、それぞれ「男子」と「女子」、下肢だけでなく上肢にも障がいがある「クァード」の3クラスに分かれて行われる。クァードは男女混合で行われ、握力がない選手には、テーピングテープなどでラケットと手を固定することが許されている。
横や後方への移動は、車いすの向きを変えなければならないため、競技用車いすは、回転性能が高まり、素早いターンが可能となるように、車輪が「ハの字」になっている。
相手の打球に追いつくには、いかに素早く車いすを動かすことができるか、「チェアワーク」が非常に重要だ。だが、相手が打ってから動き出していては遅く、うまく対応することができない。そのため、トップ選手は相手の動きやクセ、試合展開によって返球の種類や方向を読み、相手が打つ前に動き出している。