
男子200メートル(T64)決勝、ほかの選手を引き離してゴールへ向かう大島健吾。23秒24の大会新記録で金メダルを獲得し、日本勢の表彰台独占を決めた
18日に開会式が行われた国内初開催のアジアパラ競技大会は、19日からは各会場で本格的に競技がスタートした。開会式が催された名古屋市瑞穂公園陸上競技場では、パラ陸上が行われ、初日から日本勢のメダルラッシュに沸いた。
男子200m、日本勢が表彰台独占!
男子200メートル(義足・機能障害T64)決勝では、日本選手同士のデッドヒートが繰り広げられた。最初に抜け出したのは井谷俊介だ。前半の100メートルは「完璧な展開。自己ベストを出した時の走りに近いか、あるいはそれ以上だった」。しかし、「走り込みができていなかった」と言い、後半は徐々に足が上がらなくなっていった。
すると、井谷とは対照的に後半でギアを上げたのが、アジア記録保持者の大島健吾だ。今回のレースプランとして前半は抑え、後半でしっかりと走ることを意識していたという大島。しかし前半は想像以上に悪い出だしとなり、井谷との距離が想定以上に離れたことで「少しやばいなという気持ちはあった」と語る。ただ「後半で一気に加速していくことだけを頭に入れていた」という大島は、イメージそのままにホームストレートに入ると、猛烈な勢いで井谷との距離を縮めていった。そして残り30メートルあたりで井谷をかわすと、そのままトップでゴール。今シーズンに出した自己ベスト(22秒76)更新とはならなかったものの、大会新となる23秒24で優勝を飾った。
大島の後半での加速は「想定済だった」という井谷は、大島にトップを譲った際は「ここまでだったか」と思いつつも「いけるところまで粘ろう」と気持ちを切らすことなく最後まで粘りの走りを披露。後ろを走る後輩の田巻佑真の存在も刺激となり、「佑真には抜かれないようにと思って頑張った」という井谷は、大島に続いて2位でフィニッシュした。今後はロサンゼルス2028パラリンピックの出場を目指して走り幅跳びをメインにすることを決めているという井谷。スプリンターとしてのラストレースをシーズンベスト更新で飾り、こう振り返った。
「ここ最近はズタボロに大島にやられてしまっていましたが、“まだ井谷さんとこんなに戦えるんだ"ということを見せることができたんじゃないかと思います。すべてを出し切っての2位なので、悔しさよりもすっきりした気持ちです。こういうレースができたのも応援のおかげ。不安や体のどこかが痛いという思いも吹き飛ぶくらいに歓声で勇気づけられ、走っている最中もどこも痛くない状態で走ることができました。パラリンピックも含めてこれまで出場したどの大会よりも、この大会が一番意味のある大会になったと思います」
また大島に大きく離された日本パラ陸上選手権後はレースには出ずに、アジアパラでの200mにかけて練習を重ねてきたという田巻も2人の先輩に食らいつき、3位。レース前に3人で話していたという「表彰台独占」を実現させ、観客を魅了した。

男子200メートル(T64)決勝、ゴールへ向かって力走する井谷俊介。23秒52で2位に入り、銀メダルを獲得した
男子5000m、女子走り幅跳びはワンツーフィニッシュ!
男子5000m(視覚障害T11)では、東京、パリと2大会連続でパラリンピック銀メダルの唐澤剣也が、15分20秒46の大会新で優勝した。当初は自己ベストを狙っていたが、「前半に中国の選手に前に出られて、なかなか抜け出せない展開が続いたので、タイムよりも勝負に徹することに切り替えた」という唐澤は、タイムに関しては「まったく満足はしていない」としながらも「自分たちの走りでこんなにも声援が送られて盛り上がってくれた。そのなかで金メダルという結果を残せたのは良かったです」と述べた。49歳の和田伸也は2位とベテランの意地を見せ、米岡聡は5位でフィニッシュした。

ガイドランナーとつないだロープを掲げ、声援に応える唐澤剣也(右)。男子5000メートル(T11)を15分20秒46の大会新記録で制した
女子走り幅跳び(義足・機能障害T63/T64、切断などT42)でも兎澤朋美が大会新の4m73で金メダル、シーズンベストの4m59を跳んだ前川楓が銀メダルに輝いた。兎澤は「いつも赤旗が上がり、自分の首をしめるような形になることが多い」という1本目の跳躍で4m59と「それなりの記録を残せた」ことで、「記録を上げていく準備ができたなかで2本目以降に進めた」ことが大きかったと勝因を述べた。それでも「自己ベストを狙っていたので、金メダルを取ったことよりも悔しさの方が大きい」と語り、「来年の世界選手権に向けて、しっかりとレベルアップしたい」と早くも次を見据えた抱負を述べた。
また、今シーズンは不調で4m40台に終わっていた前川は「競技を楽しむことができなくて、これ以上うまくならないのではと考えることも多かった」という。そんななか今大会で「何としても出したいと思っていた」というシーズンベストという結果に「一番いい自分をうまくこの大会にぶつけることができた。久しぶりに楽しいなと思いながら試合をすることができました」と笑顔を見せた。

両腕を大きく広げ、砂場へ向かって跳ぶ兎澤朋美。女子走り幅跳び(T63/T64)で4m73の大会新記録をマークし、金メダルを獲得した
さらに今大会で現役を引退する高桑早生もシーズンベストとなる5mの大台に乗せ、4位に入った。この種目は複数のクラスの選手で競い合う「コンバインド種目」として実施され、公平に順位を決めるために実際の記録に各クラス固有の係数をかけ合わせるラザポイントシステムが適用された。そのため「メダルを取るためには世界記録が必要という難しい状況だったので、ある意味、割り切れていた」と高桑。それでも「実際の記録では若い選手たちに負けずに1番の記録で終わりたいと思っていたので、それを達成することができて良かったです」と納得の表情を浮かべた。
15年間、日本代表として数々の国際大会に出場してきた高桑だが、そのなかでも第1回大会から出場してきたアジアパラ競技大会は「思い入れが強い」と語る。そのアジアパラが国内で初めて開催となった今大会を現役最後の舞台に選んだ。観客席には家族や友人をはじめ、「これまでで一番大勢の知り合いが来てくれていた」と言い、そんななかで迎えた最後の跳躍をこう振り返った。
「緊張するかなと思っていたのですが、知っている人たちの顔をたくさん観客席で見つけたら、ホッとしましたし、みんなにかっこいいところを見せたいと気合いが入りました。これまでも応援が選手の背中を押してくれていることを言葉にしてきましたが、今回はまさにそれを体感し、1本目から6本目まで本当に楽しかったです」
21日の100mが現役最後のレースとなる高桑。13秒台の快走を披露し、有終の美を飾るつもりだ。

第1回大会から出場してきたアジアパラを、現役最後の舞台に選んだ高桑早生。女子走り幅跳びはシーズンベストの5m台を跳び、4位に入った
女子1500m(視覚障害T12/13)では、佐々木真菜が銅メダルを獲得し、今シーズンから新たに取り組み始めた同種目で確かな一歩を踏み出した。これまで400mをメインとしてきた佐々木だが、ロサンゼルスパラリンピックを見据え、少しでもメダルに近い種目を模索した結果、1500mに挑戦することを決意した。もともと高校1年まではエントリーしていた種目だと言い、抵抗はなかったものの、シニアの大会では初の1500mのレースだった今回は「ほかの選手の足が当たったり、体の接触といった慣れていない部分もあって不安があった」と語る。それでも「後半は持ち味である400mでのスピードを生かそうと思い、ラストの300mでしっかりと上げていくという思い通りのレース展開ができたなかで目標としていた銅メダルを獲得できたので、自信になりました」と手応えを口にした。
初日からメダルラッシュに沸いたパラ陸上は、23日までレースが続く。2日目以降もメダル候補の日本選手が続々と登場するだけに、熱い声援を追い風にメダル量産となるかが注目される。
(文・斎藤寿子/撮影・竹内圭)
【陸上】
一般の陸上競技と同じく、「短距離走」「中距離走」「長距離走」「跳躍」「投てき」「マラソン」と多岐にわたった種目が行われる。
障がいの種類や程度に応じて男女別にクラスが分かれ、タイムや高さ、距離を競う。選手たちは、「義足」「義手」「レーサー」(競技用車いす)など、それぞれの障がいに合った用具を付けて、パフォーマンスを磨いている。
用具の進化によって、選手のパフォーマンスが上がっていることは事実だが、決して用具頼りの記録ではない。用具を使えば技術が上がるわけではなく、選手には使いこなすだけの身体能力、筋力、バランスなどが必須となる。
視覚障がいのクラスでは、選手に伴走する「ガイドランナー」や、跳躍の際に声や拍手で方向やタイミングなどを伝える「コーラー」などといったサポーターの存在も重要となる。選手とサポーターとの信頼なくしては成り立たず、息の合ったやりとりはふだんの練習の賜物でもある。
クラスによっては、オリンピックにも劣らないレベルの記録が出るなど、時代とともにレベルが高くなっており、毎大会トップ選手の記録更新が注目されている。多種多様な障がいの選手が一堂に会し、さまざまな工夫を凝らし、自分自身の限界に挑む姿が見られるのが、この競技の魅力でもある。