
準決勝、決勝と貫禄のストレート勝ちで金メダルに輝いた矢ケ部姉妹
11月21日、聴覚障がい者による国際大会「東京2025デフリンピック」は大会7日目を迎え、京王アリーナTOKYOではバドミントンのトーナメントが行われ、女子ダブルスでは姉妹で臨んだ矢ケ部紋可・真衣ペアが、決勝で中国ペアをストレートで破り、金メダルに輝いた。また男子ダブルスでは、今大会バドミントンでは最年少、高校3年生の森本悠生と、前回のデフリンピックに続いての出場となった永石泰寛のペアが銀メダルを獲得。沼倉昌明、太田歩ペアは4位となり、表彰台にあと一歩届かなかった。
姉妹の強い絆で駆け上がった世界の頂
「今大会は常に強い気持ちで臨むことができた」という女子ダブルス・矢ケ部姉妹ペアが、この日も息の合ったコンビネーションを見せた。韓国のペアと対戦した準決勝、第1ゲームは終始リードした形で試合を進め、16-21で先取。続く第2ゲームも優位に試合を進めたが、終盤は相手の粘りに押され、16-16と追いつかれた。それでも逆転は許さず、5連続ポイントで一気に試合を決めた。21-16で第1ゲームに続いて連取した紋可・真衣ペアはストレート勝ちで決勝進出を決めた。
ラリーが長くなることを予想していたという2人。「この試合しかないというくらいに最初から最後まで強い気持ちで臨んだ」と姉の紋可。妹の真衣も「相手は強い選手だったが、自分たちの方が強いんだ、という気持ちでくらいついていった」と語った。
その強い気持ちのまま臨んだ決勝戦。1時間前から念入りにアップし、緊張することなく、しっかりと集中して試合に入った。相手はこれまで一度も対戦したことがない中国のペアだったが、第1ゲームを21-9と圧倒して先取した。第2ゲームも決して流れを渡さなかった。「ポイントを取られてもミスをしても、次、次と気持ちを切り替えてプレーしていた」という2人は、ラリー戦になっても我慢強く拾い続け、一つ一つポイントを積み重ねていった。翻って中国ペアは焦りからか序盤からミスを連発。最後は相手のカットがネットにかかり、勝敗が決した。

2人の強い絆によるコンビネーションが光ったプレーで頂点をつかんだ
一度はペアを解消し、それぞれ違う選手と組んで試合に出場する時期もあった矢ケ部姉妹。それでも最後は最も信頼できるパートナーとして互いを選び、2人で自国開催という特別な大会での金メダルを目指した。その2人の絆は、一緒に暮らしていた時よりも、姉・紋可が就職を機に一人暮らしを始め、九州と関東の遠距離になった今の方が深まっているという。「会う回数が少なくなったからこそ、深くコミュニケーションを取るようになった」と姉・紋可。妹・真衣も「ぶつかることも多かったが、2人ともメダルを取るという気持ちは同じだった」と語った。
そんな2人だからこそのコンビネーションは、プレーにも表れていた。以前は少なくなかった“お見合い"のシーンは今大会ではなかった。その理由について、妹・真衣はこう打ち明けた。
「今まではどこにどう飛んできたらどちらが取るかをはっきりと決めていました。でも、ルールを決めてしまうとかえって迷いが出てしまっていたので、今大会では決めることなく、とにかく取りにいく、そういう気持ちをお互いに持っていこうというふうに話をしていたんです。だから迷うことはありませんでした」
“姉妹で金メダル"という目標を達成した紋可と真衣。何よりもうれしいのは、2人そろって家族に金メダルを見せられることだ。

最年少、18歳で初出場も堂々のプレーで観客を魅了した森本悠生
森本・永石ペア、準決勝でフルセットの末につかんだ金星!
また、男子ダブルスでは森本・永石ペアが準決勝で強豪タイのペアを撃破する金星を挙げた。第1ゲーム、1点を争う激しい攻防戦の中、中盤に森本・永石ペアが5連続ポイントで抜け出すと、終盤に16-16と一度は追いつかれたものの、サーブでポイントを奪うなどして逃げ切り、21-17で第1ゲームを先取した。
しかし第2ゲームは中盤までリードしていたが、終盤に逆転を許し、19-21。ゲームカウント1-1となり、試合は振り出しに戻った。勝負の第3セット、ラリー戦を制するなど主導権を握った森本・永石ペアは最大6点のリードを奪い、試合を有利に進めた。終盤にまたも同点に追いつかれたが、最後は永石が力強いバックハンドのプッシュを決め、21-18としてゲームカウント2-1で勝利。世界選手権やアジア大会で敗れた相手との対戦に「気持ちを高めて臨んだ」と永石。森本は「相手はレシーブが本当にうまいので我慢して戦った。たくさんの応援のおかげで勝つことができた」と語った。
迎えた決勝戦、第1ゲームは防戦一方となり、11-21で落とした。第2ゲームは1-5から挽回し、6-6と同点に追いつく粘りを見せたものの逆転することができないまま、じりじりと引き離されていった。結局16-21で落とし、ストレート負け。それでもデフリンピック初出場の森本は「ここまで来れるとは正直思っていなかったので、負けたのは悔しいけれど、決勝という舞台で戦えたことは本当に素晴らしい経験だった」と語った。一方の永石は「金メダルを目指していたので本当に悔しい。また2人で相談をして、金メダルを目指したい」と早くも4年後に向けての意気込みを語った。

シングルス、混合ダブルスに続いてメダルを逃した沼倉昌明は団体戦でリベンジする
一方、同じく男子ダブルスの沼倉・太田ペアは、準決勝、第1ゲームを21-16で先取し、幸先いいスタートを切ったかに思われた。ところが第2ゲームは相手に主導権を握られながらも粘り強く戦ったが、17-21で落とすと、第3ゲームも5-10と大きくリードを奪われて苦しい展開となった。一時は持ち味の粘り強さを発揮して逆転に成功するも、終盤に再び勝ち越され、18-21。ゲームカウント1-2と逆転負けを喫した。前回大会は準決勝進出を決めたものの、コロナの影響で棄権を余儀なくされ、悔しい思いをした沼倉・太田ペア。それだけに強い思いで臨んだが、ファイナルの舞台にはあと一歩及ばなかった。
気持ちを切り替えて臨んだ3位決定戦もフルゲームまでもちこんだものの、勝利をつかむことはできず、4位。コロナで無念の棄権となった前回大会と同じ戦績に終わったが、「自分が今持っているすべてを出し切った。とても楽しかった」と太田。沼倉も「再びこの舞台に立てたことに感謝の気持ちでいっぱい」と述べた。そして「気持ちを切り替え、チーム一丸となって各国の選手を倒して金メダルを取れるように頑張りたい」と団体戦でのリベンジを誓った。
その団体戦は、23日から予選リーグが始まり、グループCの日本はトルコ、ウクライナと対戦する。25日のファイナルに向けて、日本は“ワンチーム"で世界の強敵に挑む。
(文・斎藤寿子/写真・村上智彦)