2022ジャパンパラ陸上競技大会【1日目】

パラ陸上 249の挑戦と記録が観客を魅了-ジャパンパラ陸上競技大会1日目-

5月14日、たけびしスタジアム京都（京都市）でWorld Para Athletics公認「2022ジャパンパラ陸上競技大会」が開幕した。

どんよりとした肌寒い天候の中、競技がスタート。徐々に初夏を思わせる日差しが照りつけると、会場を訪れた2300人の観客は熱のこもったパフォーマンスに大きな拍手を送った。
応援に背中を押されるかのように、大会1日目の14日には世界新記録が生まれたほか、5つのアジア記録、そして14の日本記録が更新された。

トラック種目では、T47（上肢障害）女子100mで辻沙絵（日本体育大学）が12秒69の日本新記録で優勝。会場に記録更新を知らせるアナウンスが流れると、電光掲示板に表示された自身の記録を見て「やったー！」と笑顔で喜びをかみしめた。
400mをメイン種目とする辻は今シーズン、スピード強化のため短距離や走り幅跳びに積極的に取り組んでおり、この日のレースでは後半まで同じリズムで走り切ることを意識。
「同じストライドのまま最後まで力まずに良い流れで走り切れたことが自己ベスト更新につながった」と充実感をのぞかせた。


T45/T46（上肢障害）男子100mでは、三本木優也（T45・京都教育大学）と石田駆（T46・トヨタ自動車）が追風参考記録ながら11秒の壁を破り10秒台をマーク。
東京パラリンピックでは同種目で５位入賞を果たした石田（10秒86）は「スタートがうまくいき中盤でも足がしっかりまわっている感覚があった。ゴール手前から10秒台が出るんじゃないかという手応えがあった」とレースを振り返り、「（非公認記録ではあったが）やっと自分が10秒台で走れるというスタート地点に立つことができた」と声を弾ませた。

この日、自身の記録を0秒01上回る10秒85のタイムで優勝した三本木を“ライバル"と呼ぶ石田は、「（三本木選手は）僕にとってもパラ陸上にとっても大切な存在。上肢障害クラスで公認記録10秒台を出した日本人選手はまだいないが、その扉を開くのが見えてきた。三本木選手と競い合いながらパラ陸上を盛り上げて、パリパラリンピックでは一緒に表彰台に上れるようにがんばりたい」と語り、さらに「三本木選手よりも先に10秒台を出したい」と闘志を燃やした。


東京パラリンピックで2冠に輝いた車いすT52の佐藤友祈（モリサワ）の新たな挑戦が始まっている。
金メダルを獲得した400mと1500mに加え、先月4月から本格的に取り組んでいるのが100mだ。
2024年のパリ大会では1500mがメダルイベントから除外されることが決まり、2016年のリオと東京でともに2個のメダルを獲得した佐藤が考えたのは、400m一本に絞るのではなくパリでも２個のメダルを獲りたいということだった。そこで、100mへのチャレンジを決めた。
「僕は人が難しいと思っていることをひっくり返すのが好きなんです。（100mに関して）自分には伸びしろしかない。僕だったらパリで金メダルに届くと思っています」
100mのシーズンインだと語る今大会での記録は18秒91。それに対して同種目のパラリンピック記録は16秒79。決して楽な道のりではないが、挑戦を始めたばかりの佐藤が見据える先はただひとつ、世界の頂きだ。

北京冬季パラリンピックでの眩い活躍が記憶に新しい村岡桃佳（トヨタ自動車）。
陸上とスキー、夏冬二刀流の続行を宣言した村岡は、東京パラリンピック以来8カ月ぶりにレーサー（陸上競技用車いす）でレースに出場した。
東京大会以降は陸上から離れており、今大会に向けて練習を始めたのが先日の大型連休。久しぶりにレーサーに乗った時は緊張したといい、体力の低下や思うように走れない自分に「空白の時間を大きく感じた」と話す。

「再スタート」という言葉で復帰第1戦を表したこの日のレース、T54女子100mでは追風参考記録ながら、自身の持つ日本記録まで0秒01に迫る16秒68で優勝。ゴールの瞬間は硬い表情だったもののすぐに笑顔を見せた村岡は「スキーと同じで陸上も一本勝負。大会の緊張感、人と並んで競り合う感覚も久しぶりで、ドキドキ、ワクワクして楽しむことができた」とレースを振り返った。
「スタートしたばかりでコンディションも戻っていないが、パリ大会への出場を目指してこの2年間取り組んでいく。下積みをしっかり作ってパリではさらに高いところに行きたい」
村岡の新たな“４年"がいまスタートした。

大会1日目の参加者は249名。
249の思い、249の挑戦がスタジアム中にあふれた。
大会2日目の15日は5000m、800m、200mのトラック種目と走幅跳、砲丸投など跳躍・投てき種目が行われる。


【記録一覧】
●世界新記録
T63 女子 400m 1分22秒45 保田明日美(みえのパラ)
●アジア新記録
T11 男子 10000m 32秒39.29 和田伸也(長瀬産業)
T32 女子 100m 39秒96 仲元ゆかり(兵庫パラ陸協)
T63 女子 100m 16秒22 兎澤朋美(日本体育大学)
T20 女子 走幅跳 5m34 酒井園実(ISFnet)
F64 女子 円盤投 24m22 前田樹里(スタートライン)
●日本新記録
T12 男子 100m 11秒24 山路竣哉(LINE)
T36 男子 100m 12秒30 松本武尊(ACKITA)
T11 男子 10000m 32秒39.29 和田伸也(長瀬産業)
F56 男子 砲丸投 8m96 千脇貢(SMBC日興)
F20 男子 円盤投 31m92 山中大輔(中京大クラブ)
F12 男子 やり投 58m44 若生裕太(電通デジタル)
F46 男子 やり投 61m24 高橋峻也(トヨタ自動車)
T20 女子 100m 12秒64 加藤茜(日本知的陸運)
T38 女子 100m 13秒67 高松佑圭(ローソン)
T47 女子 100m 12秒69 辻沙絵(日本体育大学)
T63 女子 400m 1分22秒45 安田明日美(みえのパラ)
T20 女子 走幅跳 5m34 酒井園実(ISFnet)
F11 女子 やり投 12m82 辻岡恵子(DREAMAT)
F20 女子 やり投 39m55 川口穂菜美(横浜市陸協)

(文・張理恵)