2021年11月21日

2021ジャパンパラ車いすラグビー競技大会【2日目】
ベテランと若手の競演が観客を魅了「応援は選手の力になる」

軽やかなチェアワークと力強いタックルで歓声を浴びた島川慎一

千葉市の千葉ポートアリーナで開催された「2021 ジャパンパラ車いすラグビー競技大会」。
大会2日目の11月21日にはエキシビションマッチと決勝戦の2試合が行われ、車いすラグビー日本代表候補選手たちの迫力あるプレーが観客たちの視線を釘付けにした。

エキシビションマッチとして行われた「ローポインターズ・ゲーム」は、障がいの重い“ローポインター"と呼ばれる選手のみが出場する試合で、障がいの度合いや体幹などの機能により0.5～3.5の（0.5刻みで）7つに分けられるクラスのうち、0.5から1.5までの3つのクラスが対象となる。
普段は献身的なディフェンスでチームを支えるローポインターたちがタックルをしてボールを奪いトライを取り合うシーンは新鮮で、コートには静かな闘志がみなぎった。

同じ1.5クラスで日本代表候補選手の乗松兄弟

両チームとも慎重にゲームをスタートさせるなか、「ローポインターズA」の日向顕寛（クラス1.5）と「ローポインターズB」の若山英史（同1.0）がトライを重ねていく。そして第1ピリオド終盤にチームAの乗松聖矢と倉橋香衣がコートに送り込まれると空気が一転し一気に全体のスピードがあがった。
第2ピリオドでは乗松聖矢と乗松隆由による“兄弟対決"が注目を浴びる。開始早々、チームAが5連続得点を挙げて流れを引き寄せると、ボールコントロールの良さに定評がある長谷川勇基が正確なヒッティングパスで会場をうならせる。

普段は粘り強い守りでチームに貢献する倉橋がトライを決める一幕も

チームAの7点リードで迎えた第3ピリオド。チームB・今井友明のパスがきれいな弧を描きトライを演出すると、チームAでは倉橋がトライする貴重なシーンも見られ、トレードマークの笑顔で観客の応援に応えた。
ハイポインター顔負けのタックルもさることながら、相手チームのパスコースや進路をふさぐディフェンスも健在。第4ピリオドでは、長年にわたり日本のローポインターをリードしてきた岸光太郎（チームB）が自らトライを挙げ存在感を示した。
試合は小川仁士がキャプテンを務めるチームAが40-32で勝利。勝敗以上に、経験の浅い選手が試合の中で成長する姿や、最後までボールにくらいつく熱いプレーが光る、見応えたっぷりな試合となった。

島川と橋本のマッチアップが火花を散らした

続いて行われた「日本代表候補B」と「日本代表候補C」による決勝戦は、大会のトリを飾るにふさわしいパワー全開の一戦。
立ち上がりから、日本中を沸かせたパラリンピックでの戦いを彷彿とさせるような、レベルの高い攻防が繰り広げられた。

「世界一のプレーヤーになることが目標」と公言する橋本勝也（チームB）が絶妙のタイミングでパスを受けトライまで持ち込むと、乗松聖矢はスペースに走り込みノーマークでトライ。それに対して、チームCの島川慎一は華麗なチェアワークで縦横無尽にコートを駆け回り貫禄のトライ。ディフェンスに、オフェンスにと存在感を見せる壁谷知茂（チームB）と羽賀理之（チームC）のミッドポインター陣もチームを支える。第1ピリオドを11-11の互角の戦いで終えた。
このまま、1点差で終了した前日の対戦のような試合になるかと思いきや、第2ピリオドで、経験豊富なベテラン選手が揃うチームCの「チーム力」が、チームBを引き離す。コミュニケーションのとれた連係プレーと高い位置からのプレッシャーで、22-18とチームCのリードで試合を折り返した。

後半に入っても流れはチームCにあった。
しかし、勝敗の行方よりも内容の濃さに会場はヒートアップしていく。橋本と島川がタックルで2人同時に転倒し車いすラグビーの激しさを見せつければ、倉橋は黙々と自分の仕事に集中しコートの隅で相手を抑え込む。障がいの重さに関係なく融合するチームプレーの奥深さが体現される。
高く舞うロングパスに、ルーズボールを巡って地を這う泥臭いプレー…。
会場DJのコールに合わせ、観客はリズムに乗り手拍子で各ピリオドの開始をあおり、コートと客席が一体となった会場の熱気は最高潮に達して試合終了。48-38でチームCが勝利を収めた。

大会を終え島川は、約2年ぶりに観客の前で試合ができて「楽しかった」と率直に感想を語り、「応援は選手の力になる」と観客への感謝の意を述べた。

大会の最後に総括をするケビン・オアー日本代表ヘッドコーチ

12月からは来年10月に開催される世界選手権に向けての強化が始まり、日本代表強化合宿も本格化していく。ケビン・オアー日本代表ヘッドコーチは、「技術面での強化に加えてメンタルへの取り組みも進めていく」と今後のプランを語った。
パリに向けて新たなスタートを切った、車いすラグビー日本代表。
「応援」を力に換え、一歩一歩、一試合一試合、その歩みを進めてゆく。

■2日目試合結果

＜Low Pointers Game＞
Low Pointers A ○40-32● Low Pointers B

＜決勝戦＞
日本代表候補B ●38-48○ 日本代表候補C

（文・張理恵、撮影・湯谷夏子）

【車いすラグビー】
　1チーム4人で、8分間のピリオドを4回行い、その合計得点を競う。バスケットボールと同じ広さのコートでプレーし、ボールを持った選手の車いすの車輪2つが、敵陣のゴールラインに乗るか、もしくは通過するかでトライが認められ、1点が入る。
　選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から0.5～3.5までの7クラスに分けられている。持ち点の合計が8点以内で編成された4人が出場できる。ただし、女子選手が含まれる場合は1人につき0.5点の追加が許可される。
「ラグ車」と呼ばれる競技用車いすは「攻撃型」と「守備型」の2種類。主に持ち点が大きい選手が乗る「攻撃型」は、狭いスペースでも動きやすいようにコンパクトな作りになっている。一方、主に持ち点が小さい選手が乗る「守備型」には、前方に相手の動きをブロックするためのバンパーが付けられている。
　車いすラグビーは、四肢麻痺など比較的障がいの重い人でもできるスポーツとして考案された男女混合の競技。しかし、パラリンピック競技で唯一、車いすによるタックルが認められており、「マーダー（殺人）ボール」という別名がつくほど、激しいプレーの応酬が魅力の一つ。その激しさは、ボコボコに凹んだ車いすのスポークカバーを見れば一目瞭然だ。