得意のスリーポイントで幾度もチームを救ってきた主将の古澤拓也。
【3大会ぶりとなるメダルには到達しなかった――。】
16日、「IWBF男子U23車椅子バスケットボール世界選手権」(カナダ・トロント)が幕を閉じた。優勝は、予選プールを1位で通過し、その余勢を駆って、決勝トーナメントではイラン、日本、そして決勝でトルコを破ったイギリス。日本は3位決定戦でオーストラリアに敗れ、4位となった。
実力からすれば、オーストラリア戦は勝てる試合であり、勝たなければいけない試合だった。
前日の準決勝で、イギリスに34-76と完敗を喫した日本だったが、この日、試合前のアップを見ていると、きちんと気持ちを切り替えているように感じられた。実際、前半は非常に良かった。日本が最大の武器とするディフェンスが機能し、オーストラリアの攻撃をしっかりと封じていた。
特に、エースO'NEILL-THORNE Tomに対し、日本が厳しくチェックし、ほとんど仕事をさせなかったことがオーストラリアの得点が伸びなかった最大の要因だった。前日の準決勝トルコ戦では52得点中、一人で6割の31得点をマークしたO'NEILLに、第2Qはスリーポイント1本に抑えていた。
オーストラリアとの3位決定戦でミドルシュートを決める鳥海連志。
一方、日本のオフェンスに対し、オーストラリアのディフェンスはアジャストしていなかった。古澤拓也、鳥海連志、川原凛といったA代表の強化指定選手らのミドルシュートが次々とゴールに吸い込まれていった。
なかでも、キャプテン古澤は、スリーポイントを含むアウトサイドシュートのみならず、自らドライブでインサイドを攻めるなど、引き出しの多さはチームの中でも群を抜いていた。さらに5本のフリースローをすべて入れてみせ、技術のみならずメンタル面での強さも示した。
第2Qを終えて40-26と、14点のリードを奪った日本。試合内容を見ても、3大会ぶりのメダルに、手が届きかけているように思われた。
しかし、こういう試合で得てして陥りやすいのは「勝てる」と思ってしまったがゆえの気持ちの緩みだ。経験の浅い若手だけに、その可能性は否めないように思われた。
すると、後半は一気に流れが変わった。前半はほとんど入っていなかったオーストラリアのゴール下でのシュートが入り始め、高さをいかした攻撃が展開されていったのだ。逆に日本のアウトサイドのシュートが入らなくなり、徐々に点差が縮まっていった。
やはり、気の緩みが生じてしまったのか――。
【残り30秒で出た痛恨のバックパス】
日本のディフェンスをかいくぐりシュートを決めるオーストラリアのエースO'NEILL-THORNE Tom。
だが、実際は違っていた。第3Qを迎えた時の状況を、古澤はこう振り返る。
「リードしていることで余裕が生まれたのではなく、逆にリードしているからこそのプレッシャーをみんなが感じてしまっていたのかもしれません。それが、日ごろにはあり得ないミスへとつながっていったのだと思います」
さらに第3Q中盤、攻守の要の一人である鳥海がファウル4つとなり、ベンチに下がると、オーストラリアに怒涛の8連続ゴールが生まれ、ついに逆転を許してしまった。
それでも、日本も最後に意地を見せ、残り2分で5点ビハインドから、川原のミドル、丸山弘毅のカットイン、そして古澤のスリーポイントと、それぞれの武器を最大限にいかした攻撃で、なんとか追い付き、51-51と同点で第4Qを迎えた。
その第4Q、主導権を握ったのはオーストラリアだった。シュートを打つことさえもほとんどできなかった第3Qまでの鬱憤を晴らすかのように、エースO'NEILLが、日本のディフェンスをかいくぐり、次々と得点を挙げていったのだ。約2分間で、たった一人で4連続ゴールという鮮やかなプレーに、スタンドからは応援団の歓声が鳴り響き、会場の雰囲気はオーストラリアのホームと化していった。そして、この相手エースの連続ゴールが、最後まで日本を苦しめた。
中盤以降、立て直した日本は、逆に4連続ゴールを挙げるなど猛追し、残り1分のところで3点差にまで迫った。しかし、最後の最後に痛恨のミスが出た。残り30秒のところで日本ボールとなり、最後の攻撃に転じようとしたその時、パスが乱れ、古澤がボールを後方へとこぼしてしまう。これがバックパスとなり、ボールはオーストラリアへと渡ってしまったのだ。
すぐに丸山が5つ目の退場覚悟でボールマンに当たっていき、ファウルゲームへと持ち込んだ。残り15秒8。3点差のままであれば、まだわからなかった。しかし、ここでオーストラリアはエースO'NEILLがきっちりとフリースローを2本ともに決めてみせた。日本も最後まで諦めずに攻めたものの、オーストラリアの守備に阻まれ、逃げ切られてしまった。
【勝敗を分けた闘争心の差】
実力的には、日本がオーストラリアに劣っていたわけではない。攻守ともに、それほどの差はなかった。いや、チームの総力からすれば、日本の方が上回っていたと言ってもいい。
それでも、昨年11月の北九州チャンピオンズカップ、今年1月のアジアオセアニア予選では勝っていた相手に、この大一番で勝つことができなかったのはなぜなのか。その要因を、京谷HCはこう分析する。
「このゲームに勝ちたいという闘争心が、オーストラリアの方が上回っていたということだと思います。こういう舞台では、技術的なことうんぬんよりも、そういう気持ちの部分で勝たなければ、メダルは取ることはできない。そのことを、選手たちはよくわかったと思います。ただ、そういうふうに選手の気持ちをもっていけなかったのは、すべて僕の責任。選手たちは本当に最後までよく戦ってくれました」
目標のベスト5を上回る世界4位となったU23男子日本代表。
準決勝でイギリスに完敗し、3位決定戦ではオーストラリアに逆転負けを喫した日本。最後に世界の洗礼を浴びるかたちとなり、選手たちの悔しさははかり知れない。
しかし、決して下を向く必要はない。わずかな期間の中、限られた合宿や遠征で「ディフェンス」という武器を確立し、自信をつけて臨んだ今大会、フランスやアメリカに勝ち、そしてドイツとも競り合った。また、優勝したイギリスと1ケタ台での接戦を演じたのは、実は予選での日本のみなのだ。彼らの力は確実に世界に通用したと言っていい。
もちろん、負けたことは事実だ。そのことを真摯に受け止め、今後の糧としてほしい。若い彼らにとっては、ここからが真のスタートだ。
【大会結果一覧】
1位 イギリス
2位 トルコ
3位 オーストラリア
4位 日本
5位 ドイツ
6位 カナダ
7位 フランス
8位 イラン
9位 アメリカ
10位 イタリア
11位 ブラジル
12位 南アフリカ
(文・斎藤寿子、写真・岡川武和)