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2019年1月21日 

2019ジャパンパラボッチャ競技大会

ボッチャの醍醐味が炸裂

ランプ調整後に右手に固定させたリリーサーを使って投球。正確なショットを放ちBC3個人戦を制した高橋和樹

1月19日〜20日、東京・新宿コズミックスポーツセンターで「天皇陛下御在位三十年記念2019ジャパンパラ ボッチャ競技大会」が開催された。カナダ、韓国チームが参加して行われ、BC4ペア戦はカナダチームとの対戦、BC1/BC2団体戦は競合・韓国との対戦。BC3個人戦は日本人選手同士の戦いとなった。ペア戦は19日が1-9、20日は1-8でカナダが勝利し、個人戦は20日の決勝戦で高橋和樹(フォーバル)が河本圭亮(あいちボッチャ協会)を6-0で下して優勝。団体戦は日本が韓国を相手に19日8-1、20日8-3で快勝した。

BC1-2団体戦、日本対韓国。会場には多くの観客が詰めかけた

ボッチャは、重度の脳性まひや、四肢に障害がある人のために考案されたパラスポーツ特有の競技である。選手は障害の種類・程度により、BC1〜4まで4つのクラスに分けられ競技が行われる。ジャックボールと呼ばれる白い目標球を投げた後、赤または青のボール6球を投げ、いかにジャックボールに近づけるかを競う。カーリングに似ているが、目標となるジャックボールを動かすことができるという点がボッチャの特徴だ。

日本は、2016年のリオパラリンピックBC1/BC2団体戦で銀メダルを獲得。2020年東京パラリンピックに向けて、ボッチャというスポーツの認知度、人気は急上昇している。今大会でも、会場に足を運んだ観客数は2日間で1,341名にのぼった。

今大会で特筆すべきは、日本人対決となったBC3個人戦と若い高校生チームで臨んだBC4ペア戦だ。特にBC3個人戦は、ほとんどミスのない展開。優勝した高橋が「世界的にも稀に見るハイレベルな戦いだった」と振り返るほどであった。

BC3は、ボッチャの中でももっとも障害の重い選手のクラスである。手を使ってボールを投げることができず、「ランプ」と呼ばれる滑り台のような器具を使用して投球する。ランプの高さ、向きなどの調整は、選手の指示にしたがってアシスタントが行うが、試合中はコートを見ることも言葉を発することも許されない。ランプを滑り落ちていく球が吸い寄せられるようにピタリとジャックボールに密着すると、思わず「おおっ!」という感嘆のため息が観客席からもれる。

ハイレベルな戦いであったBC3個人戦

ランプ3つを組み合わせ、スピードのある投球をする河本圭亮

決勝戦で対戦したのは、38歳の高橋と、19歳の河本。高橋は5歳から始めた柔道で活躍し全国中学校大会で優勝するなど活躍していたが、高校2年の時に試合中、頚椎損傷という大けがを負った。2013年、東京オリンピック・パラリンピック開催決定後にボッチャを始め、リオパラリンピックに出場を果たしている。一方の河本は進行性神経疾患による四肢障害があり、小学3年でボッチャを始めた。19歳にしてすでに10年のキャリアがあるベテランで、2016年には強化指定選手として選出されている。

高橋と河本は2018年12月の日本選手権、2019年1月のワールドオープンドバイで対戦し、1勝1敗。今大会は、互いに譲れない決戦だった。

河本が赤、高橋は青。赤の河本が第1エンドでジャックボールを投げて試合開始となる。河本が寄せた赤のボールを、高橋が弾いて展開を変化させれば、河本も高橋の投げた青いボールとジャックボールをともに動かすなど、ともにコート上のボールをどんどん動かしていく。前半第2エンドが終了した時点で、高橋は3点差をつけてリードしていた。

観客を大きくうならせたのは、この後の第3エンドだ。

河本は、4投目で、1投目でジャックボールの手前に置いたボールをプッシュし3個の赤ボールをジャックボールに寄せることに成功。一気に流れを変える展開に持っていった。その後、高橋は河本と同じようにジャック手前に置いておいた青ボールをプッシュして、ジャックボールと赤が密集したボールの塊の上に、投球を載せることに成功したのだ。

ただ、この時点ではまだ下にある赤のボールの方がジャックに近いことから、次の投球も高橋の順番である。スピードを調整するためにランプは3分割されている。3つのパーツを組み合わせて投球すればスピードやパワーが加わり、低い位置から投球すれば速度や距離は小さくなる。高橋は土台となるランプの高さから投球し、着実にジャックボール手前に自分の青ボールを密着させた。すると、次に投げる河本は3つを組み合わせた最高の位置からスピードをつけて投球。なんと! 今度は河本のボールがジャックに密集したボールの上に載ったのである。

両者の球がジャックボールに載る

審判は投球ごとに、どちらのボールの方がよりジャックボールに近いかを計測しなくてはならない。コンパス状の計測器では計測できず、ペンライトや厚さの異なる計測用のプレートのようなものをボールの隙間に差し込む。

ジャックに近いのは高橋の青ボールだった。河本は最終の6投目。手前にかたまっていた赤いボールをわずかにプッシュしてジャックに近づけた。この時点で、河本の赤2個と高橋の青1個がジャックに密着している状態だった。

高橋の投球は残り2個。今度は3つのパーツを重ねた最高の位置から勢いをつけて投球し、上に載っていた赤ボールを落とした。これで高橋の勝利が決まったことから、最後の1投は、どのボールにも触れずコート後方に送り、リスクを回避して、1得点を守り切った。

最終エンドで高橋が2得点を追加し、6−0で河本を完全に退けたのだった。

「ランプを使うBC3では、ボールの上にボールを載せることは狙ってできるというものではありません。第3エンドで条件が揃ったのでできましたが、同様に河本選手も載せてきた。2個もボールが載る状況は、めったに見られない展開でした」
と、高橋が振り返った。
「残りの球数が、私の方が多かったので、冷静に狙っていきました」

「0-3で第3エンドを迎えた段階では、3点差は取り返せると思っていました。実際、12月に行われた日本選手権では高橋選手に逆転勝ちをしています。だから、焦りはありませんでしたが、今回新しく使用した、動きにくい(走らない)ボールを投げる精度が高橋選手に比べて甘かった。そこが敗因だと思います」
と、河本も冷静に試合を分析した。

戦局が、めまぐるしく変わっていく。観客は、ドラスティックな展開を、ただただ、固唾をのんで見守るしかない。これぞ、ボッチャという試合がこの決勝戦で炸裂したのだった。

10代トリオが敗戦の中にも確かな手応え

今大会が日本代表デビュー戦ながらも、BC4ペア戦全試合に出場した宮原陸人。

もう一つの見どころとなった、BC4のペア戦では、日本チームは17歳の江崎駿(愛知県立小牧特別支援学校)、16歳の宮原陸人(東京都立府中けやきの森学園)、同じく16歳の内田峻介(山口県立山口南総合支援学校)の3人が出場。19日には江崎と宮原、20日は江崎の体調不良もあり、宮原と内田というペアが、リオパラリンピックに出場したカナダのベテランチームと対戦した。2018年10月に行われたアジアパラ競技大会に出場した江崎以外の2名は、ともに国際大会は初。完敗という結果ではあったが、「2人でコミュニケーションを取りながら、落ち着いてプレーできた」(宮原)、「残り10秒という場面でも、“まだ10秒ある"と思って焦らずに投げられた」(内田)と、堂々たる戦いぶりを披露した。

杉村英孝(36歳/静岡ボッチャ協会)、廣瀬隆喜(35歳/西尾レントオール)、藤井由里子(46歳/富山ボッチャクラブ)というリオパラリンピック銀メダリストに、フレッシュな20歳の中村拓海(愛徳福祉会)を加えたBC1/BC2団体戦は、安定したプレーで韓国に2戦2勝。

今大会、アリーナだけでなく2階席にも観客が入り、ビール片手に観戦を楽しむ観客の姿も見られた。ボッチャが確実にパラスポーツの人気競技に成長しているということが証明された大会となった。

(文・宮崎恵理、撮影・峯瑞恵)