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2018年12月29日 

アスリートインタビュー⑤

さらなる高みを目指して 川嶋悠太 / ゴールボール

日本のセンターとして東京パラリンピックで活躍が期待される川嶋悠太


人間は外界から得る情報の約8割を、視覚から得ていると言われる。ゴールボールは、その視覚を完全に閉じて行うスポーツだ。もとは、視覚障害者のリハビリのために考案されたパラスポーツ特有の球技で、1976年のトロント大会からパラリンピックの正式競技にもなっている。

1チームは3人で、バレーボールと同じ大きさのコートに2チームがセンターラインをはさんで向き合い、得点を競う。攻撃側がボールを転がすように相手ゴール(幅9m、高さ1.3m)に向かって投げ、守備側は体を横たえ、ボールがゴールに入らないように防ぐ。

全員がアイシェードと呼ばれる目隠しをしてプレーする。障害による見え方の違いをなくし、公平に競技を行う工夫だ。

だから、選手が頼りにするのは、「音」。ゴム製のボールには鈴が入り、転がると音が鳴る。ほかに、チームメートの声や相手選手の足音、気配など、耳をそばだて、感覚を研ぎ澄ませ、ボールの行方を追う。

また、コートのラインテープには3㎜以下のヒモが仕込まれていて、選手はこの凹凸を手や足で触り、自分の位置の目安にする。視覚以外の感覚を総動員してプレーするのがゴールボールだ。

守備のとき中央に位置する「センター」が、両サイドの「ウイング」を統率しながら、攻守にわたり司令塔を担うことも多い。

2020年東京パラリンピックに向けて強化が進む男子日本代表で、このセンターとして活躍している選手が、24歳の川嶋悠太(アシックス・ジャパン)だ。

野球少年だった川嶋は小学校4年生頃から、目の難病によって視野が狭まるなど見えにくくなり、視覚特別支援学校に入学。そして、ゴールボールと出会った。持ち前の運動センスと努力で、すぐさま頭角を表すと、2013年はユースの国際大会で優勝に貢献。2014年以降はフル代表のセンターとしてキャリアを積んできた。

川嶋は、ボールの位置を察知する「サーチ力」に定評がある。正確なサーチにはまず、鋭敏な聴力が必要で、日常生活から電車の音や鳥の声など、さまざまな音に耳を傾け、聴く力を磨いている。

もう一つ重要なものとして川嶋は、「予測力」を挙げる。対戦チームの特徴や試合の流れも考え合わせ、「さっきは右からボールがきたから、次は左だろう」などと相手の気持ちを読む。予測力の精度もセンターの腕の見せどころであり、醍醐味でもある。

大舞台でつかんだ、手ごたえと課題

こうして、日本の守護神としても存在感を放つ川嶋にとって今年は、「世界の中の自分」をより強く意識した年になった。6月にはスウェーデンで世界選手権があり、16チーム中9位、10月のインドネシア・アジアパラ大会では8チーム中4位だった。

どちらも4年に1度の大会で、前者ではトップ3を、後者では金メダルを目指していた。順位こそ目標未達だったが、好プレーで強豪国にとも渡り合い、惜しい試合も多かった。

外国勢に比べて小柄な日本チームだが、例えば、ボールをキャッチ後すぐに投げ返す機動力や、攻撃後に素早くポジションに戻って守備体勢をとる俊敏性が大きな武器だ。また、移動攻撃やフェイクの音を立てるなど、相手を翻弄する戦術も多彩だ。

川嶋も、「自分たちの良さは出せました」と振り返る。

だが、いい勝負をしても、勝ちきれなかったのは事実。「レベルが、まだ足りない……」と、反省も口にする。

チームとしては、「勝負所での忍耐力」を課題に挙げた。リードしていても、試合終盤に焦りが出て、自分たちのミスで試合を落とすこともあった日本に対し、世界の強豪たちは逆にギアを上げてくる。攻撃のボールは威力を増し、守備の集中力は高まる。1球で試合の流れを呼び込む「決め球」を持つチームも多かった。

「ボールの強さだけでなく、気持ちの『圧』も感じるんです。激しく攻め続けながら、守備では冷静さを保つのが強いチーム。どんな局面でも淡々と、やるべきことをやり続ける大事さを痛感しました」

川嶋はもう一つ、個人的に悔いを残したこととして、「不安定なディフェンス」を挙げた。守備のとき、体の右側を下にして横たわるが、実は、2年前のある試合で、ボールに飛びついた際、右ひじを床に強く打ちつけて痛めた。完治はしたが、無意識に右ひじをかばうクセが抜けきらず、腕の下をボールが通り抜けてしまうシーンも今年もまだ、見られたからだ。

11月に行われた日本選手権でも抜群のサーチ力を見せる


海外武者修行で広げる、プレーの幅

「センターとして、もっと、もっと力をつけたい」

悔しい思いを胸にアジア大会から帰国した川嶋はまだ疲れも残る10月下旬、単身、ブラジルへ向かった。現地のクラブチームの練習に参加させてもらうためだ。

ブラジルの代表チームは恵まれた体格から繰り出される重くて速いボールをベースに、グラウンダーやバウンドボールなど多彩な攻撃に加え、「鉄壁」ともいえる堅い守備にも定評がある。総合力の高さで鳴らす「絶対王者」だ。リオパラリンピックでは銅メダル、今年の世界選手権では優勝している。

ゴールボールで投げられるボールは、単調そうに見えて、実は多彩だ。男子トップ選手のスピードボールは時速60~70キロにもなり、守備側に届くまで1秒もかからない。また、選手によって手元で伸びたり、回転がかかっていたり、バウンドボールと言っても弾む高さに変化したりと、「さまざまな質の持ち球」がある。

アイシェードをつけている選手にはボールの質を目で確認することはできないので、「とにかく、たくさんの選手のボールを受け、どう止めるかを体で覚えていくしかない」と川嶋は言う。

より多くの質のボールを体感したいと考えた川嶋は昨年から海外への武者修行に挑戦。春にはアジアの強豪中国に、秋にはリオパラリンピックを制したリトアニアに出かけた。「次はぜひ、世界王者のボールを受けたい」と自ら交渉し、ブラジル行きを実現させたのだ。

念願かなってのブラジルでは、「毎日が刺激的」だったという。練習時間や内容は日本チームの強化合宿とそれほど変わらないと感じたが、質は、やはり高かった。

チームにはブラジル代表が1名含まれていたが、約10人のメンバーに実力差はほとんどなく、飛んでくるボールはどれも、世界クラス。最初はその威力に押し負けることも多かったという。

だが、1球ごとにコーチから守備の姿勢などをアドバイスされ、その都度、意識して修正を試みた。そんな練習を繰り返すうちに、手先や足先にきた強烈なボールも止められるようになっていった。

とくに参考になったアドバイスは、「ボールを、点でなく面で止めること」。サーチが甘くボールの位置に確信が持てないときこそ、手足をしっかりと伸ばし体全体で面をつくることを徹底指導された。

「守備範囲が広くなるので、コースを読み間違えてもボールを止めやすくなりました」

10日間と短い期間だったが、密度の濃い時間を過ごし、「センターとしての幅や経験値は確実に上がったし、自信になりました」と手ごたえを語る。

「ゴールボール選手として、もっと大きくなりたいです。できれば、いつか海外に練習拠点を移し、集中してじっくりと競技に取り組みたいという思いもあります」

本格的な「移籍」は、日本のゴールボール選手では初めてとなる。「仲間たちをリードしていく覚悟で、実現できれば」と、向上心も旺盛だ。

2020年、その先に向けてセンターとしての思いを熱く語る

2019年早々に挑む、国際親善大会

鍛え、悩み、挑んだ今年1年の成長を試す場が、来年早々にある。1月13日・14日、千葉で開かれる国際親善大会、「2019 ゴールボール・ジャパン・メンズ・オープン(Goalball Japan Men's Open)」だ。海外3カ国(カナダ、オーストラリア、タイ)を迎え合同合宿と試合を行う。日本は強化指定選手で構成する2チームが参加する予定だ。海外チームと戦える貴重な機会になる。

来年は7月に世界公式戦(アメリカ)が、12月にアジア・パシフィック大会(千葉)が控える。どちらも、2020年に向けた試金石になる重要な大会となる。ジャパン・オープンで結果を出し、弾みをつけたいところだ。

「選手3人がコミュニケーションをとりながら連動し、攻めて守るチームワークや、スピード感あるプレー、相手チームを巧みにだます戦術など、『日本のよさ』をしっかり見せたい」と、川嶋は意気込む。

ブラジルでつかんだワザと自信で、日本チームをリードする川嶋のプレーに注目だ。

<川嶋悠太(かわしま ゆうた)>

1994年9月24日、東京生まれ。アシックスジャパン株式会社所属。小学校4年のとき、網膜色素変性症を発症し、徐々に視力が下がり、視野も狭まる。現在の見え方は横長のドーナツのような状態。ゴールボールは八王子盲学校でゴールボールを始める。2013年、ユースの国際大会で金メダル、2014年、アジア大会で銅メダル獲得に貢献するなど、日本代表センターとして活躍中。2017年には中国、リトアニアで、2018年には世界一位のブラジルで武者修行を敢行。東京2020大会でのメダル獲得を目指す。

<2019 ゴールボール・ジャパン・メンズ・オープン(Goalball Japan Men's Open)>
日程: 2019年1月13日~14日
会場: 千葉ポートアリーナ(千葉市)
参加: 日本A、日本B、カナダ、オーストラリア、タイ

(文・星野恭子、写真・峯瑞恵)