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2023年4月29日

第34回日本パラ陸上競技選手権大会【1日目】

世界選手権出場をかけ記録に挑む 〜第34回日本パラ陸上競技選手権大会【1日目】〜

開会式で選手宣誓を務め、100メートル(T63)では優勝をおさめた近藤元 | 世界選手権出場をかけ記録に挑む 
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開会式で選手宣誓を務め、100メートル(T63)では優勝をおさめた近藤元

4月29日、「第34回日本パラ陸上競技選手権大会」が神戸総合運動公園ユニバー記念競技場(兵庫県神戸市)で開幕した。
World Para Athletics 公認大会である今大会は、7月に開催される「パリ2023世界パラ陸上競技選手権大会」(以下、世界選手権)日本代表の選考を兼ねており、派遣標準記録突破を狙う選手たちの真剣なまなざしから、この大会にかける熱い思いが感じられた。世界選手権で4位以内に入賞すれば、来年のパリパラリンピックの出場内定が得られるとあって、パラリンピックを経験したベテラン勢のみならず、初出場を目指す選手たちの気合はひときわ大きかった。

トラック競技の立位では、男子T63(義足・機能障がい)クラスの100メートルで、近藤元(摂南大学)が、パラリンピック4大会連続出場の山本篤(新日本住設)を0秒39上回る13秒56のタイムで優勝した。
出場選手たちから祝福を受けた近藤は、「チャンピオンの山本選手に勝つことができて素直にうれしい」と声を弾ませた。この種目では派遣標準タイムを切れなかったが、走り幅跳びで世界選手権出場が内定している近藤。「今の自分の実力では世界選手権でメダルをとるのは難しい。しっかり4位以内を狙いたい」と意気込みを語った。そして、「オリンピック選手のように、みんなが僕の名前を知っている選手になりたい。同じ障がいのある方々に勇気と希望を与えられたら」とアスリートとしての目標を述べた。
一方の山本は、腰を痛めて全力で走れない中での出場だったが、20年以上守ってきたトップの座を譲ることとなった結果に、「悔しい。次に勝負する時には万全の状態に戻して、負けない姿を見せたい」とプライドをのぞかせた。それでも、自身を脅かすような後輩が現れたことに対しては「うれしい。これからまだ伸びると思う」と話し、「(近藤選手から)パフォーマンスの動画が送られてきて僕に報告をくれる。やる気が感じられる」と期待を込めた。

東京パラリンピック代表の大島健吾との戦いに打ち勝った井谷俊介 | 世界選手権出場をかけ記録に挑む 
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東京パラリンピック代表の大島健吾との戦いに打ち勝った井谷俊介

また、男子T64(義足・機能障がい)の100メートルでは、井谷俊介(SMBC日興証券)が大島健吾(名院大AC)とのライバル対決を制し、11秒51の大会新記録で優勝した。井谷は、2週間前に行われた「愛知パラフェスティバル」で11秒29の日本新記録をマークした。今大会は11秒08の派遣標準タイムを切り、世界選手権への切符を手にしようと臨んだ大会だったが、「スタートで失敗した。力みすぎて反発感がなかった」と、この日の走りを振り返る。目標には届かなかったが、「レースに勝って、久しぶりに“うれしい"という気持ちがパーンとでた」という言葉通り、ゴール直後、悔しそうに天を仰いだ大島とは対照的に、井谷は両手で大きなガッツポーズを作り笑顔を見せた。東京パラリンピック出場を逃し、昨年には引退も考えたという井谷。そんな時に自己ベストが出て「陸上が楽しい、走るのが楽しい」と純粋に思えたと言う。「2020年以降の暗い自分がやっと消えた」とポジティブなメンタルが再び前を向く大きな力になっているようだ。世界選手権出場という目標は達成できなかったが、今年10月のアジアパラ競技大会に気持ちを切り替えると、「100メートルで金メダルを獲得して、連覇を果たしたい。200メートルでもメダルを狙っている」と表情を引き締めた。

T34クラスの新星、小野寺萌恵 | 世界選手権出場をかけ記録に挑む 
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T34クラスの新星、小野寺萌恵

車いすでは、女子T34(脳性まひ・車いす)の小野寺萌恵(北海道東北パラ陸上)が、400メートルで1分07秒10(日本新・大会新)、100メートルを20秒49のタイムで優勝した。中学2年生のときに陸上を始め、未来のオリンピック・パラリンピック選手を発掘する「J-STARプロジェクト」4期生として本格的に陸上に取り組むと、「バーレーン2021アジアユースパラ競技大会」で金メダルを獲得した。先月開催された「世田谷パラ陸上車いす競技会」(WPA公認大会)で18秒88をマークし、世界選手権の派遣標準記録をクリアしている。これは、東京パラリンピックの同種目でみると、銅メダルを獲得した選手とわずか0秒20差の4位に相当するタイムだ。国際クラス分けが未確認のため世界選手権の出場は保留だが、競技クラスが認定されれば、自身が目標とするパラリンパラリンピックへの道も大きく開ける。19歳、小野寺の活躍に期待が高まる。

アルペンスキーと陸上競技の「二刀流」で進化を見せ続ける村岡桃佳 | 世界選手権出場をかけ記録に挑む 
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アルペンスキーと陸上競技の「二刀流」で進化を見せ続ける村岡桃佳

女子T54(車いす)では、村岡桃佳(トヨタ自動車)が100メートル(16秒81)と400メートル(58秒20)で優勝した。「(思うようなタイムではなかったので)悔しい思いはあるが、今後につながるようなレースができた」と振り返った村岡。「100メートルを走り終わった時、『もう終わっちゃった』と感じた。もう1段階上げられた、まだ伸ばせた。そういう気持ちを持てたのは、今後さらにギアを上げられるということ」アルペンスキーの女王でもある村岡は、スキーの先輩たちが活躍するニュースを見て刺激を受けながら、現在は陸上に専念している。「昨年よりもいいタイムが出るようになって、自分に成長が見られる。取り組んできたことは間違いじゃなかったんだという確信が持てている」ハキハキと明るく語る、その表情から充実さがうかがえる。すでに100メートルと800メートル種目で派遣標準記録を突破している村岡。世界選手権に向けては、「もう1段階上げて、成長と課題を見つけられるような走りをしたい」と力強く語った。

走り幅跳び(T12)で日本記録を更新した石山大輝 | 世界選手権出場をかけ記録に挑む 
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走り幅跳び(T12)で日本記録を更新した石山大輝



そして、フィールド競技の走り幅跳びT12(視覚障がい)クラスでは、石山大輝(順天堂大)が追い風参考記録ながら7メートル11の大ジャンプで優勝した。「ウォーミングアップの段階からコンディションがよくて、身体が浮くような感覚があった」と話す石山は、1回目で自身の持つ日本記録を塗り替える6メートル98の跳躍を見せると、「考えながら跳ぶのが好き。修正しながら跳んだ」という言葉通りのパフォーマンスで、6回目を7メートル07で終えた。初出場となる世界選手権まで2カ月余り。「7メートル二桁台をアベレージで出して、勝負できる段階まで持っていきたい」と、さらなる成長を誓った。

パリパラリンピックへの戦いが本格化してきたことを実感させた日本パラ陸上競技選手権。
地道に積み上げ、この一瞬にかけるアスリートたちの真剣勝負が、観客の心を熱くさせる。


(文・張 理恵、撮影・湯谷夏子/鈴木奈緒)

【記録一覧】
●アジア新記録
男子T13 400m 48秒34 福永凌太(中京大クラブ)

●日本新記録
男子T47 400m 50秒23 鈴木雄大(JAL)
男子T12 走幅跳 7m07 石山大輝(順天堂大)
男子T13 走幅跳 6m90 福永凌太(中京大クラブ)
男子F42 円盤投 21m40 鈴木貴之(横手パラ)
男子F43 円盤投 23m08 江川勤(キンレイISW)
男子F43 円盤投 20m79 千葉竜也(横手パラ陸上)
男子F32 こん棒投 18m09 井上流生(鳥取パラ陸協)
女子T34 400m 1分7秒10 小野寺萌恵(北海道東北パラ陸上)
女子T47 1500m 6分19秒60 小釜莉代(東北AC)

●大会新記録
男子T52 100m 17秒14 伊藤竜也(新日本工業)
男子T54 100m 14秒27 生馬知季(WORLD-AC)
男子T64 100m 11秒51 井谷俊介(SMBC日興証券)
        11秒67 大島健吾(名院大AC)
男子T54 400m 47秒03 生馬知季(WORLD-AC)
男子T62 400m 1分2秒55 秒森宏明(ACKITA)
男子T11 5000m 15分9秒09 唐澤剣也(SUBARU)
男子T47 走幅跳 6m92 芦田創(TOYOTA)
女子T63 100m 16秒08 兎澤朋美(富士通)
女子T20 400m 1分00秒65 菅野新菜(みやぎTFC)
女子T47 400m 59秒09 辻沙絵(日体大)
女子T11 5000m 20分50秒26 井内菜津美(みずほFG)

【陸上】
 一般の陸上競技と同じく、「短距離走」「中距離走」「長距離走」「跳躍」「投てき」「マラソン」と多岐にわたった種目が行われる。
 障がいの種類や程度に応じて男女別にクラスが分かれ、タイムや高さ、距離を競う。選手たちは、「義足」「義手」「レーサー」(競技用車いす)など、それぞれの障がいに合った用具を付けて、パフォーマンスを磨いている。
 用具の進化によって、選手のパフォーマンスが上がっていることは事実だが、決して用具頼りの記録ではない。用具を使えば技術が上がるわけではなく、選手には使いこなすだけの身体能力、筋力、バランスなどが必須となる。
 視覚障がいのクラスでは、選手に伴走する「ガイドランナー」や、跳躍の際に声や拍手で方向やタイミングなどを伝える「コーラー」などといったサポーターの存在も重要となる。選手とサポーターとの信頼なくしては成り立たず、息の合ったやりとりはふだんの練習の賜物でもある。
 クラスによっては、オリンピックにも劣らないレベルの記録が出るなど、時代とともにレベルが高くなっており、毎大会トップ選手の記録更新が注目されている。多種多様な障がいの選手が一堂に会し、さまざまな工夫を凝らし、自分自身の限界に挑む姿が見られるのが、この競技の魅力でもある。

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