2023 日本パラ水泳春季チャレンジレース【1日目】

山口尚秀が貫禄の泳ぎで世界新記録を更新！～2023 日本パラ水泳春季チャレンジレース（１日目）～

3月4日、「2023 日本パラ水泳春季チャレンジレース」が静岡県富士水泳場（静岡県富士市）で開幕した。2023年度の日本代表選手選考会を兼ねる今大会は、7月末から8月初旬にかけてイギリス・マンチェスターで開催される「2023 WPS世界選手権」日本代表、そして１年の延期を経て10 月に中国・杭州で行われる「杭州 2022アジアパラゲームズ」日本代表推薦選手選考の対象記録にもなる重要な記録会だ。

特に、今年の世界選手権で金メダルを獲得した選手（※）は、パリ2024パラリンピック水泳日本代表の推薦内定選手となることが日本パラ水泳連盟から発表されており、また、銀メダルを獲得すれば、その国にパラリンピック出場枠が与えられることから、パラリンピックを目指す選手にとっては、パリへとつながる“チャレンジ"の2日間となる。（※パリ2024パラリンピックで実施される個人種目に限る）


会場は、自己ベスト更新、そして世界選手権の派遣基準記録突破を狙う選手たちの熱気に包まれた。
世界新記録の泳ぎで場内を大きく沸かせたのは、S14（知的障がい）の山口尚秀（四国ガス）だ。男子100メートル平泳ぎ。ふぅーっと息を吐いてレースに臨んだ山口は、スタートから力強い攻めの泳ぎを見せ29秒11でターン、ぐんぐんと2位以下の選手を引き離し、自己ベスト（1分3秒77）を1秒以上も更新する1分2秒75のタイムでフィニッシュした。

「自分の動作を細かく分析して、フォームの改善に努めた」と山口。水面から上半身を浮かせる時には、頭を上げるのではなく「首を伸ばす」ようにしているといい、また、下半身に力を入れ過ぎず余力を残すことで、ストロークとキックに力を入れることを意識したと話す。東京パラリンピックと昨年の世界選手権で金メダルを獲得した同種目、来年のパリでは2秒台前半の記録を出し連覇を果たすという絵を描いている。パラリンピック出場権のかかる世界選手権では「優勝を目指したい、できれば自己ベストも更新したい」と、頼もしく意気込みを語った。
さらに、この種目に先立ち出場した100メートルバタフライでも、山口は世界選手権の派遣基準記録を突破して、翌日の200メートル個人メドレーに向け弾みをつけた。

また、女子100メートル平泳ぎでは、高校生スイマーの福田果音（SB8 運動機能障がい、KSGときわ曽根）が1分25秒55をマーク。昨年9月の「2022ジャパンパラ水泳競技大会」で自身が打ち立てたアジア記録をさらに塗り替え、世界選手権の派遣基準記録も突破した。
「今大会で目標にしていた派遣基準記録を切り、自己ベストも更新することができてうれしい。1月の海外合宿で平泳ぎの強化をした。（健常者の）大会にも出場して、いいところまで持ってこられた。今後は1分24秒台を狙いたい」と、まばゆい笑顔でハキハキと語った。

S11（全盲クラス）の木村敬一（東京ガス）は、今大会では100メートルバタフライと50メートル自由形の2種目にエントリーし両種目で派遣基準記録をクリアした。得意のバタフライでは、自己ベストには及ばなかったものの、東京パラリンピックと昨年の世界選手権で金メダルを獲得した時と同じ1分02秒台で泳ぎ、「しっかり2秒台を出すことができた」と合格点を与えた。

東京パラリンピックで悲願の金メダルを達成したことで、東京2020大会以降、「競技へのモチベーションが難しい」と話す。
「リオが終わって東京までは１試合たりとも負けたくなかった。でも今はどうやったら自分が速くなれるのかを考えられるようになった。違う気持ちで金メダルを目指せるんだろうなと。（このクラスで）世界のトップに立つ選手の多くは目が見える状態で水泳を覚えた選手。（自分のように）生まれつき見えない人は『動き』というものを覚えていけるものなのか興味がでてきた。そういうことにもチャレンジできればと思っている」

それでも「パリ（パラリンピック）には行きたい」と穏やかな表情で思いを語る木村。世界選手権に向けては、「泳ぐからには0.01秒でも速く泳ぎたい。そのためにどういうアプローチができるのか、考えながら、楽しみながら記録を上げたい」と、やる気に満ちた笑顔を見せた。

レースに向かう選手たちの表情や気持ちの入った泳ぎから“パラリンピック１年前"であることを改めて実感されられる今回の「春季チャレンジレース」。
世界新記録とアジア新記録、そして9つの日本新記録が生まれた大会1日目。3月5日に実施される2日目のレースを終え、世界選手権日本代表が決定する。

●マンチェスター2023 WPS世界選手権　派遣標準記録突破選手

由井真緒里(上武大学) S5 女子200m自由形 03:09.64
SB5 女子100m平泳ぎ 01:57.99
富田宇宙 (EY Japan) S11 男子100mバタフライ 01:03.58
S11 男子50m自由形 00:27.21
木村敬一 (東京ガス(株)) S11 男子100mバタフライ 01:02.70
S11 男子50m自由形 00:26.69
西田杏(シロ) S7女子50mバタフライ 00:37.92
田中映伍(個人(神奈川県)) S5 男子50mバタフライ 00:36.07
日向楓(宮前ドルフィン) S5 男子50mバタフライ 00:35.54
豊田美来(QlassicS) S10 女子100m背泳ぎ 01:13:00
小野智華子(あいおいニッセイ) S11 女子100m背泳ぎ 01:22.21
荻原虎太郎(セントラルスポーツ) S8 男子100m背泳ぎ 01:10.19
窪田幸太(NTTファイナンス) S8 男子100m背泳ぎ 01:05.56
宇津木美都(大阪体育大学) SB8 女子100m平泳ぎ 01:27.60
福田果音(KSGときわ曽根) SB8 女子100m平泳ぎ 01:25.55
石原愛依(神奈川大学) SB13 女子100m平泳ぎ 01:10:09
辻内彩野(三菱商事) S13 女子50m自由形 00:28.24
鈴木孝幸(GOLDWIN) S4 男子50m自由形 00:39.02


●記録一覧

【世界新記録】
山口尚秀(四国ガス) SB14 男子100m平泳ぎ 01:02.75

【アジア新記録】
福田果音(KSGときわ曽根) SB8 女子100m平泳ぎ 01:25.55

【日本新記録】
窪田幸太(NTTファイナンス) S8 男子100m背泳ぎ 01:05.56
川渕大耀(宮前ドルフィン) S9 男子100m背泳ぎ 01:09.06
上園温太(須磨学園) S10 男子100m背泳ぎ 01:07.98
齋藤正樹(ミミSC) S14 男子100m背泳ぎ 01:02.11
豊田美来(QlassicS) S10 女子100m背泳ぎ 01:13.00
由井真緒里(上武大学) SB5 女子100m平泳ぎ 01:57.99
石原愛依(神奈川大学) SB13 女子100m平泳ぎ 01:10.09
芹澤美希香(宮前ドルフィン) SB14 女子100m平泳ぎ 01:17.54
山中優輝(個人(仙台市)) S14 男子1500m自由形 17:19.45

（文・張理恵、撮影・湯谷夏子/村上智彦）