1月20、21日、東京体育館では「天皇杯 第48回日本車いすバスケットボール選手権大会」が行われた。コロナ禍で中止が続き、2019年5月以来3年8か月ぶりの開催となった今大会、決勝の舞台に勝ち上がってきたのはいずれも東京2020パラリンピック日本代表として銀メダル獲得の立役者となった鳥海連志、香西宏昭がキャプテンを務めるパラ神奈川SC(関東)とNO EXCUSE(東京)だった。2Qで逆転し、わずかにリードして試合を折り返したパラ神奈川が後半にNO EXCUSEを引き離し、51-44で勝利。1997年の第26回大会以来4度目の日本一を決めた。
前半から垣間見えたパラ神奈川のディフェンス力
NO EXCUSEとの決勝は、パラ神奈川にとってリベンジの機会でもあった。2022年10月に行われた東日本第2次予選会での決勝、一進一退の攻防が続いたなか、66-69と僅差で敗れるという悔しさを味わっていたのだ。
その3か月前の熱戦を彷彿させるかのように、この日の決勝もまた激戦のスタートとなった。1Q、最初に主導権を握ったのは6度目の決勝で初優勝を狙うNO EXCUSE。昨シーズン限りでこれまで拠点としてきたドイツから完全帰国し、2018年以来の天皇杯に臨んだ香西が開始早々にオフェンスリバウンドからのセカンドチャンスに自らドライブで切り込んで先制。その後もチームメイトとの連携から生まれたスペースにカットインしてシュートを決めた香西。1分半で3連続得点とし、独壇場の雰囲気を醸し出した。
しかし、その後は得点を挙げられずにいると、中盤、古澤拓也がミドルシュートを立て続けに決めたパラ神奈川が同点に追いついた。そして終盤、オールコートのプレスディフェンスに切り換えたパラ神奈川の守備にNO EXCUSEが苦戦。それでも最後、フリースローからのオフェンスリバウンドを制したNO EXCUSEが、香西のこの日早くも12得点目となるバンクショットで14-10とリードして1Qを終えた。
だが、実は1Qの終盤から徐々に影響力を及ぼしていたのは、パラ神奈川のディフェンス力だった。高い位置でラインを作りながら下がり、相手の攻撃の時間を削る。あるいはオールコートでのプレスディフェンスをしかけるなど、国内ではトップを誇るスピードを生かした攻めのディフェンスで、8秒バイオレーションをとるなど、試合の流れを引き寄せ始める。その証拠にターンオーバーはパラ神奈川の2に対し、NO EXCUSEは前半を終えてすでに16に膨らんでいた。
さらにNO EXCUSEのエース香西に対し、同じ日本代表候補のトップスキルを誇る鳥海や古澤がマッチアップするなどして簡単にはシュートチャンスを与えなかった。NO EXCUSEは2Qではわずか6得点。1Qではフィールドゴール(FG)成功率100%という驚異の数字を誇った香西も2得点に抑えられた。
一方でNO EXCUSEの統制の取れたハーフコートのディフェンスもしっかりと機能していた。そのためタフショットを余儀なくされたパラ神奈川の得点も伸びず、2Qを終えて24-20。パラ神奈川が逆転するも、前半を終えてのFG成功率は30%にとどまり、この時点では互角の様相を呈していた。
チームに勢いを与えた丸山の復活と選手層
ところが後半に入ると、パラ神奈川が主導権を握った。その要因の一つは、先述したディフェンスにあったことは間違いない。3Qでは序盤からプレスディフェンスを敷き、簡単にはボール運びさせなかった。そのため、NO EXCUSEからターンオーバーを奪って素早いオフェンスにつなげ、パラ神奈川主導の流れを作り出した。
そして、もう一つチームに勢いを与えたのが、丸山弘毅の復活だろう。前日の準決勝で両腕がつるアクシデントがあったという丸山は、前半は最も得意とする右サイドからのミドルシュートにおいてはリングから嫌われ続けていた。
それでも「自分を信じてパスを出し続けてくれた」とチームメイトに感謝していたという丸山には逃げの姿勢は一切なかった。粘り強く打ち続けた末についに2Qの最後、長身のハイポインターがジャンプアップしてきた中でのミドルシュートを決め切った丸山。これで感覚をつかみ、自信を取り戻したのだろう。後半の丸山は、いつも通りの好シューターぶりを遺憾なく発揮。得点源が分散されたことで、NO EXCUSEのディフェンスを難しくさせていたに違いない。
それでもNO EXCUSEに諦めの姿勢はまったくなかった。「がまんだぞ、がまん!」「40分だぞ!」と、チームを鼓舞し続けた香西にチームメイトも応えた。これまで積み重ねてきたことをやり続け、勝利を目指したNO EXCUSE。なかでもハイポインターの橘貴啓が、11得点を叩き出して猛追。ディフェンスも機能し、最後の3分間はパラ神奈川に追加点を許さず、4Qに限っては16-11と上回った。1回戦では74点、準決勝では61点をマークしたパラ神奈川を50点台に抑えたのは、NO EXCUSEのディフェンス力を示していた。
そして、それを上回る形で強固なディフェンスを見せたのがパラ神奈川だった。実はFG成功率を見れば、NO EXCUSEは43.8%だったのに対し、1回戦、準決勝ではいずれも40%以上だったパラ神奈川は35.2%。オフェンス面では本領発揮とはいかなかった試合だった。それでも相手から24ものターンオーバーを引き出したディフェンスが、パラ神奈川を頂点に導いた最大の要因となった。
さらに、パラ神奈川とNO EXCUSEとでは大きな違いが一つあった。選手層の厚さだ。「僕たちはチームとして勝ちにいくということをやり続けたことでいい流れをつかめたことが、今日の試合(の結果)だったと思います」という試合後の鳥海の言葉には、それが含まれていたのではなかっただろうか。
今大会、NO EXCUSEは初戦こそ狙い通り全員出場を果たしたが、準決勝、決勝においてはスタメンの5人中4人が40分フル出場を余儀なくされた。その中で最も体力的に厳しかっただろう決勝の4Qで得点で上回ったのは称賛に値する。しかし主力の体力を温存したり、流れを変えるなど、ベンチによる戦略の引き出しを作り出すことができなかったことは今後の課題と言える。
一方、パラ神奈川は20代という若手が主力であることに加えて、大会を通してある程度プレータイムをシェアしながら戦うことができた。これが勢いを止めなかった要因の一つとなっていたのだろう。
大会MVPには、決勝で51点中22点とチーム最多得点を叩き出した鳥海が初受賞。オールスター5にはパラ神奈川から丸山、古澤、NO EXCUSEからは森谷幸生、そのほか4位だった千葉ホークス(関東)の川原凜が選出された。
王座を奪還したパラ神奈川のメンバーは口々に「連覇」を堂々と宣言した。前回大会覇者の宮城MAX(東北)が築いた11連覇の記録を破り、黄金時代を築き上げるつもりだ。その牙城を早くも崩すチームは果たして現れるのか。新時代に突入した日本車いすバスケットボール界から目が離せない。
(文・斎藤 寿子/撮影・湯谷 夏子)
■結果一覧
<最終順位>
優勝 パラ神奈川SC
2位 NO EXCUSE
3位 埼玉ライオンズ
4位 千葉ホークス
5位 LAKE SHIGA BBC / 伊丹Super Phoenix
7位 宮城MAX / ワールドBBC
<MVP>
鳥海 連志 (パラ神奈川SC)
<オールスター5>
川原 凜 (千葉ホークス)
丸山 弘毅 (パラ神奈川SC)
古澤 拓也 (パラ神奈川SC)
森谷 幸生 (NO EXCUSE)
鳥海 連志 (パラ神奈川SC)
【1回戦】
宮城MAX ●36-57○ 千葉ホークス
LAKE SHIGA BBC ●39-60○ NO EXCUSE
伊丹Super Phoenix ●54-62○ 埼玉ライオンズ
ワールドBBC ●47-74○ パラ神奈川SC
【準決勝】
千葉ホークス ●42-47○ NO EXCUSE
埼玉ライオンズ ●49-61○ パラ神奈川SC
【5・7位決定戦】
宮城MAX ●49-54○ LAKE SHIGA BBC
伊丹Super Phoenix ○71-63● ワールドBBC
【3・4位決定戦】
千葉ホークス ●46-66○ 埼玉ライオンズ
【決勝】
パラ神奈川SC ○51-44● NO EXCUSE
【車いすバスケットボール】
一般のバスケットボールとほぼ同じルールで行われる。ただし「ダブルドリブル」はなく、2プッシュ(車いすを漕ぐこと)につき1回ドリブルをすればOK。
選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から1.0~4.5までの8クラスに分けられている。コート上の5人の持ち点の合計は14点以内に編成しなければならない。主に1.0、1.5、2.0の選手を「ローポインター」、2.5、3.0、3.5を「ミドルポインター」、4.0、4.5を「ハイポインター」と呼ぶ。
コートの広さやゴールの高さ、3Pやフリースローの距離は一般のバスケと同じ。障がいが軽いハイポインターでも車いすのシートから臀部を離すことは許されず、座ったままの状態で一般のバスケと同じ高さ・距離でシュートを決めるのは至難の業だ。また、車いすを漕ぎながら、ドリブルをすることも容易ではなく、選手たちは日々のトレーニングによって高度な技術を習得している。
ジャンプはないが、ハイポインターが車いすの片輪を上げて高さを出す「ティルティング」という技がある。ゴール下の激しい攻防戦の中、ティルティングでシュートをねじ込むシーンは車いすバスケならではの見どころの一つだ。