50m背泳ぎと50m自由形で日本新をマークした14歳の山田美幸
3月6日、7日に第37回日本パラ水泳選手権大会が静岡県富士水泳場(静岡県・富士市)で開催された。当初は昨年11月に開催が予定されていたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて延期となっていた。今回は無観客にするなど感染予防対策を十分に行ったうえで開催が実現。出場選手も口々に、大会運営スタッフやボランティアの方々への感謝の言葉を述べた。
東京パラリンピックの代表選考会の場となる5月のジャパンパラ競技大会まで残り2カ月。選手たちにとってはその選考会への弾みとしたい今大会では、21個の日本新記録が誕生するなど、2日間にわたって熱戦が繰り広げられた。
なかでも驚異的な成長スピードを見せたのが中学2年生、14歳の山田美幸(WS新潟)だ。大会初日に女子50m背泳ぎ(S2=運動機能障害)で1分5秒44の好タイムをマーク。昨年11月の秋季記録会で自身が樹立した日本記録(1分11秒25)を、一気に5秒以上も更新した。
記録について聞かれると「うれしい」とあどけない表情で笑顔を見せた山田。その一方で、中学生とは思えない冷静な態度で、わずか4カ月での大幅な記録更新となった泳ぎについてこう振り返った。
「前回(昨年11月)は最初に飛ばしすぎて、後半はスタミナが持たなかったのを反省し、今回は少し緩めに入るようにしました。それとスタミナをつけるトレーニングをしてきたので、最後の5mまでは“いけるぞ"という気持ちで泳ぐことができました。次は最初からもっと飛ばしていって、どんどんスピードを上げていけたらと思っています」
1分5秒44は、2016年リオデジャネイロパラリンピックでは銅メダル、そして19年世界選手権では金メダルまで1秒差に迫る銀メダルに相当する記録だ。また2日目には女子50m自由形(S2=運動機能障害)でも、過去の日本記録を1分30秒近く上回る1分8秒60の日本新記録を樹立した。
中学生スイマーの東京パラリンピック出場どころか表彰台が現実味を帯びてきた。それでも、本人は決して浮き足立つことはない。「(東京パラリンピックでの)メダルは欲しいです。でも、その前に自分との闘い。もっと自己ベストを出せるように頑張っていきたいと思います」と山田。選考会となる5月のジャパンパラ競技大会では、さらに成長した姿を披露し、世界最高峰の大会の切符を獲得するつもりだ。
東海林大は3年ぶりの自己ベスト更新で喜びを爆発させた
また、19年世界選手権で金メダルを獲得し、すでに東京パラリンピックが内定している東海林大(三菱商事)も、大会2日目の男子100mバタフライ(S14=知的障害)で55秒68のアジア新記録をマーク。3年ぶりの自己ベスト更新に、東海林は何度も歓喜の声をあげて喜びを表現した。
「ずっと体の浮き沈みやタイミングについて悩んでいたが、やっと練習の時に“これならいける"と思えた。練習でのタイミングを心がけて泳いだ結果、3年ぶりに更新することができたのでスッキリすることができました。あくまでも自分のメインは200m個人メドレーで、バタフライはそのエレメントの一つ。5月のジャパンパラでは200m個人メドレーで4種目すべてでいい泳ぎができるようにしていきたいと思います」
木村敬一は前半は大きな手応えを感じた反面、後半は引き続き課題となった
東海林と同様に、すでに東京パラリンピック出場が内定している木村敬一(東京ガス)は、初日は19年世界選手権で銀メダルを獲得した男子200m個人メドレー(S11=視覚障害)に出場。「150mまではいいペースで行けた」が、最後の自由形での50mは少しペースが落ち、2分27秒81。自身が持つ日本記録(2分26秒04)より2秒近く遅いタイムだった。それでも1種目目のバタフライは納得した様子で「一番のメイン種目である明日の100mバタフライにつながる良いレースができた」と語った。
しかし、翌日の男子100mバタフライ(S11=視覚障害)では、狙っていた自己ベスト更新とはならなかった。「大会が限られているので1本1本のレースを大事にしていきたいと考えていて、だからこそ今大会で良い記録を出したかった」と木村。「42、3点」という辛口の自己評価だった今大会で感じた課題について、こう語った。
「前半の入りはとても良かったと思いますが、最後の20mくらいからしんどくなってしまいました。1月からの練習ではスタートと、後半での持久力を主に取り組んできていて、2種目ともにスタートでの爆発力は発揮できたのですが、後半部分の弱い部分については解決できていないなと感じました。前半は自信を持っていますし、確実に磨きがかかってきていると思っています。ただ前半のスピードが上がれば上がるほど、当然後半は苦しくなる。それをフィジカル的にどう乗り越えるかということはもちろん、技術的にも苦しくなったところでどう自分の体をコントロールしていくかということも含めて、後半の体のさばき方が不足しているなと感じました」
近づきつつある東京パラリンピックに向けて、いよいよ大詰めを迎えている。どの選手にとっても、ここからが正念場だ。
(文・斎藤 寿子、撮影・湯谷 夏子)
【水泳】
大きく分けて「肢体不自由」「視覚障がい」「知的障がい」のカテゴリーがあり、それぞれ障がいの程度に応じてクラスが分かれてタイムを競う。
使用するプールやスタート台、泳法(自由形、背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライ)は、一般の水泳と同じ。ただし、障がいを考慮して、一部ルールを変更して行われている。たとえば、視覚障がいのクラスでは、ターンやゴールの際にプールの壁に衝突しないように、コーチが「タッピングバー」と呼ばれる棒で選手の体をタッチして合図をする「タッピング」が行われる。また、両腕が欠損しているなど、障がいによってスタート時に体勢が不安定な場合は、コーチなどによって体を支えられることが認められている。
選手はそれぞれ自分自身の体の状態にあった泳ぎ方を開発し、さまざまな工夫が凝らされている。たとえば、視覚障がいの選手は、日常の練習で方向をつかむ感覚を養うとともに、レーンロープを頼りにして、少しでもロスを少なくしようと努めている。