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2019年2月6日 

2019ジャパンパラゴールボール競技大会

すべては、東京パラリンピックで再び輝くための道のり

本大会チーム最多11得点を挙げた攻撃の要、欠端瑛子

2020年の東京パラリンピックに向けたゴールボール女子日本代表の強化を目的に海外強豪国を招いて行う国際大会、「2019ジャパンパラ競技大会」が2月1日から3日間の日程で千葉県の千葉ポートアリーナで開催された。

日本女子は2012年ロンドンパラリンピックで金メダルに輝いたが、2016年リオ大会では5位に終わり、2020年大会での女王への返り咲きを目指し、強化を進めている。現在、世界ランキング(*)4位で迎えた今大会は、同1位のブラジル、同2位のトルコ、同6位のアメリカという世界トップチームと対戦することで、「現時点での実力と課題」を探り出す絶好の機会と位置付けて臨んだ。(*2018年12月31日現在)

大会は各チーム2回の総当たり戦による予選ラウンドを経て、順位決定戦に進む形で行われ、日本は予選2勝2敗2分で最終日の決勝戦に進出。予選6戦全勝のトルコと対戦したが、0-3で敗れ、準優勝で大会を終えた。

「3失点、無得点」という結果は、数字だけ見ると完敗かもしれない。だが、目隠しをして視覚以外の感覚を研ぎ澄ませてプレーするゴールボールで相手を攻略するには、まず事前に相手のデータを集めて対策をシミュレーションし、次に実戦によって体感することで得た課題をもとに修正を加えていくプロセスが欠かせない。

市川喬一ヘッドコーチ(HC)は、今回来日した4カ国と、2018年世界選手権優勝のロシアを加えた5カ国が、東京パラリンピックの有力なメダル候補とみていると言う。そのうち4カ国が集った今大会で、「準優勝に終わったのは残念だが、一定の手ごたえもあった。2020年に立派なメダルがかけられるよう、もう一度チームを立て直したい」と大会を振り返った。

若杉遥主将も、「今回、強いチームと何度も対戦ができたことで、試合ごとにチームとして個人として成長があり、課題もそれぞれ見えてきたと思う。今後、その課題をチーム皆で克服し、さらに強くなりたい」と前を向いた。強豪チームと切磋琢磨した3日間で、彼女たちはどんな手ごたえを得て、どんな課題を見つけたのだろうか? 

対策ができたこと、できなかったこと

バウンドボール対策として「三角形」の守備陣形で守る日本

日本は予選でブラジルとアメリカには1勝1敗ずつと優勢に進めたが、トルコには2敗。1戦目が4-7、2戦目も2-5と苦戦した。実は、昨年6月にスウェーデンで行われた世界選手権のときも0-5と完封されている。トルコはリオパラリンピック金メダルの強豪で、とくにエース、セブダ・アルトノロクを軸にした攻撃力は世界屈指だ。アルトノロクの174㎝の長身から繰り出される高低差のあるバウンドボールはコントロール力も高く、破壊力抜群で、国際大会での得点女王に何度も輝いている。

バウンドボールとは近年、主流となっている投法だ。以前は、床を転がすボール(グラウンダー)が主流で、日本は小柄な3選手がほぼ横一線に並んで横たわることで長い壁を作る、「一文字」と呼ばれる守備陣形を編み出し、グラウンダーを捕らえる堅守を武器に、2012年ロンドン大会で世界の頂点に立った。だが、そんな守備の壁を上から越えようと広まったのがバウンドボールだ。さらに、ロンドン大会後に公式球に採用されたドイツ製の弾みやすいボールもバウンドボール普及の追い風となった。一文字型の守備ではボールの落下点に確実に壁を立てないと、簡単に得点されてしまう。日本は苦戦し、リオ大会でメダルを逃す要因にもなった。

このバウンドボール対策として、日本はセンターを頂点にウイングが少しゴール側に下がる、「三角形」の守備陣形も併用し、守備の強化を図ってきた。選手間にスペースができるのでリスクもあるが、「一文字」とは違い、センターがバウンドに合わせられなくても、後方にもう1枚ある壁で止めることができる。今大会の予選では、トルコ戦を含めて一定の手ごたえを得ていた。

トルコのエース、セブダ・アルトノロク。圧倒的な攻撃力でチームを優勝に導く

そうして迎えたトルコとの決勝戦、日本はセンター浦田理恵に、レフト欠端瑛子、ライト小宮正江という今大会で最も出場時間の長いセットでスタートした。前半序盤、トルコはいつものようにアルトノロクが攻撃の中心だったが、予選2試合と異なり、グラウンダーを軸にバウンドボールを混ぜるという新たな攻撃パターンを披露した。バウンドボールを想定し、三角形で守っていた日本は意表を突かれた格好になった。

しかも、決勝では新品のボールが使われたため、おろしたてのボールはゴムが硬く、球速もアップしていた。高速のグラウンダーに日本の守備は揺さぶられ、必死にボールを追いかける分、少しずつ壁がずらされた。開始1分半でアルトノロクのクロスに浦田と小宮の間が抜かれ、トルコに先制を許した。

さらに2分後にも、アルトノロクにストレートで追加点を決められる。日本はタイムアウトを取って一呼吸入れたが、アルトノロクの勢いは止まらず、3点目。試合開始からわずか6分間の出来事だった。この後、日本も移動攻撃や速攻で仕掛けたが、トルコの壁は崩れない。

ベテランの小宮正江。攻守に渡りチームを牽引する

0-3のまま迎えた後半は、追いつこうとする日本と突き放しにかかるトルコとの間で緊迫の攻防が続く。両チームともアイデアを凝らした攻撃を仕掛けるが守備も堅く、試合は膠着状態に。残り2分から日本は小宮に代えて、今大会で国際戦デビューを果たした萩原紀佳を投入し、小宮とは球質の異なる攻撃で巻き返しを図ったが、トルコの守備は堅かった。残り1分でトルコがタイムアウトを取り、日本も萩原に代えて小宮を戻したが、両チームとも決め手を欠き、そのままタイムアップ。前半序盤の攻防が勝負を分ける形になった。

トルコのイェルディウム・ユトゥルムHCは試合後、「決勝戦は、守備力では世界トップ2同志の対戦だったので、あまり得点できないと思った。これまでの対戦を分析し、決勝はグラウンダーとバウンドボールを混ぜて攻撃し、日本を惑わす戦略を立てた」と勝因を明かした。全得点を挙げたアルトノロクは、「私はバウンドボールもグラウンダーも投げられる。コーチの指示もあったが、自分でもグラウンダーを試してみたかった。決められてよかった」と笑顔を見せた。

欠端は6試合で日本最多の11得点を挙げたが、「(決勝で)得点できなかったのは悔しい。ただ、今大会でいろいろ学べたのはよかった」と話し、7試合フル出場を果たした守護神、センターの浦田は、「(予選2試合で)トルコのボールも少しずつ見えてきて、このディフェンスで行けるなというヒントをもらって(決勝に)臨んだ。でも、序盤で失点を重ねてしまった。バウンドボール対策は見えてきたが、グラウンダーが入ってきたことで(新たな)課題が明確になった」と振り返った。

両チームが互いに研究しあい、戦略がぶつかり合った大一番だった。

課題は収穫。2020年大会の糧に

国際大会初出場、17歳の萩原紀佳

今大会直前、市川HCは、「日本の現状認識」と「ライバル国のデータ収集」を今大会の目的に挙げ、また、「相手の攻撃に合わせて守備のラインを上げ下げし、柔軟性をもって戦いたい」と話していた。決勝戦で前半から後半にかけた18分間、トルコの猛攻を無失点に抑えきれたことは自信になったはずだ。

一方で、トルコの戦法に、「グラウンダー」という攻撃パターンがあることも知り、その守備に課題があることも分かった。その対策は今後1年半で練ることができる。4月にはトルコに乗り込み、合同合宿の計画もあるという。そういう意味で、「新たな課題」というデータを取れたことは「収穫」でもある。

攻撃面では、相手守備の手先や足先といった狙いどころに正確に投げ込むコントロール力に課題が見えた。また、ポストぎりぎりを狙おうとしてサイドラインを割ってしまうアウトボールも少なくなかった。ゴールボールでは坦々と投げ合っているようにみえるが、実は球種を変え、コースを投げ分け、相手の守備を崩そうと試みている。それは、野球の投手と打者の攻防にも似ているが、描いている攻撃の組み立てを確実に実行するには個々の投球の精度を高めることが欠かせない。

残念だったのは、若杉主将をケガで欠き、5人で戦わざるを得なかったことだ。ゴールボールは、「今、誰がボールを持っているのか」がコート内の選手にはほぼ分からずに試合が進行するので、さまざまな選手がそれぞれ質の違うボールを投げることで守備側はより惑わされ、乱される。コントロール力の高い若杉が入ることで攻撃のバリエーションが増え、得点も増えていたかもしれない。ただし、ライバルに「手の内」を隠せたことは、次の試合の楽しみにもなる。

表彰式で笑顔を見せる日本チーム。(左から)小宮、浦田、安室、欠端、若杉、萩原

もう一つ、競技歴2年ながら攻撃力を買われて初代表を射止めた萩原の活躍も大きな「収穫」だろう。伸び盛りの17歳は今大会初戦のブラジル戦にスタメンで起用され、開始早々のファーストタッチで初得点を記すという鮮烈なデビューを飾った。長身から放たれるボールは「投げ出しの音がしない」という特長があり、守りにくいという。

守備面でも、世界トップクラスのボールを受けた今大会の経験は今後の成長につながるはずだ。実際、決勝戦終盤に起用された際、アルトノロクの強烈なグラウンダーを後ろに弾き、あわや失点の場面にも必死でボールを追い、自身でカバーした。「国内合宿では諦めていたボールだが、体を反転して取りに行ったところに成長を感じた」と市川HCも目を細める。今後の成長が楽しみな一人だ。

日本女子は今大会、準優勝という悔しい結果に終わったが、貴重な収穫も課題も手にできた。すべての経験が、来夏への糧になる。

(文・星野恭子、撮影・竹内圭)