Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア
2024年1月19日

2024アジアオセアニアチャンピオンシップス

男子日本代表、パリへの戦いに終止符も最後まで諦めない姿を披露

高さのあるイランのディフェンスをかわしシュートを狙う鳥海連志 | 男子日本代表、パリへの戦いに終止符も最後まで諦めない姿を披露|2024アジアオセアニアチャンピオンシップス | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

高さのあるイランのディフェンスをかわしシュートを狙う鳥海連志

タイ・バンコクで開催されている車いすバスケットボールのアジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC)は、大会8日目の19日には男女ともに準決勝が行われ、男子日本代表はイランと対戦した。2Qの最後に逆転して1点リードで後半を迎えたが、3Qに再び勝ち越しを許すと、4Q後半で一気に突き放され、48-63で敗れた。これで4月の世界最終予選への出場権も逃し、パリパラリンピックへの道は閉ざされた。しかし、コート上には代表としての誇りを最後まで失わず、果敢に強豪に向かっていった12人の戦士たちの姿があったーー。

イランの攻撃力が日本の守備力を上回った1Q

「今大会でも成長するなど素晴らしい選手たちが揃った、本当にいいチームになったなと感じています」

前日の準々決勝後、京谷和幸ヘッドコーチ(HC)がそう語っていた通り、東京2020パラリンピック後、さまざまな苦境を乗り越えてきたチームは、深い信頼関係で結ばれ、だからこそどのラインナップが出ても戦力が落ちることのない強さを持つ。

そんなチームにとって大一番となった今大会は「どんなに苦しい時間帯も、みんなで繋いでいこう」という思いを込めてつくったというチームスローガン“魄繋(はっけい)"の下、一戦一戦、手応えを掴みながら繋いできた。選手たちの表情や言葉からも、“自信"と“確信"が、日を追うごとに色濃くなっていくように見えた。

そうして迎えた準決勝、相手は強豪イラン。昨年の世界選手権で銅メダルを獲得し、自分たちの手でつかんだアジアオセアニアゾーンのパラリンピックの出場枠を他国に渡すわけにはいかなという気迫が、チームからひしひしと伝わってきていた。そして昨年10月のアジアパラ競技大会では、同じく準決勝で対戦し、43-40と僅差で日本が勝利。そのリベンジにも燃えていたに違いない。

そのイランとの一戦で、京谷HCが最も重視したのはゲームの入りでのディフェンスだった。常にビッグマン3枚を擁し、世界屈指の高さがある相手にペイントエリアを支配されては、日本が不利な展開になることは目に見えていたからだ。そのため、まずはインサイドケアを重視し、日本の中では高さがある藤本怜央(4.5)と秋田啓(3.5)の2人を揃えたラインナップでスタートを切る決断をした。

実際出だしは、決して悪くはなかった。高さが大事な要素として先発に抜擢されたチーム最年長の藤本がパスカットし、いきなりイランのターンオーバーからスタート。先取点こそイランに許したものの、すぐに藤本のミドルシュートで振り出しに戻したあとは、一進一退の攻防が続いた。
ベテラン香西宏昭は攻守ともに安定したプレーを見せた | 男子日本代表、パリへの戦いに終止符も最後まで諦めない姿を披露|2024アジアオセアニアチャンピオンシップス | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

ベテラン香西宏昭は攻守ともに安定したプレーを見せた

しかし、重大ミッションとされたインサイドケアという点においては、ほぼ完璧にビッグマンたちのペイントエリアへの侵入を封じた予選プールと比較すると、やられていた感は否めなかっただろう。そんななか6点差がついた1Q残り4分、これ以上離されたくない日本は守備力と得点力を兼ね備えた香西宏昭(3.5)を投入した。

指揮官の期待に応えるように、香西はコートに入った直後の1本目のシュートを、ビッグマンら2人からのプレッシャーがかかったタフな状態から、しっかりと決めた。しかし、その後イランに3ポイントシュートを含む連続得点を許すなど、最大10点差に。最終的に1Qは16-23となり、内容的にもアウトサイドとインサイドの両方でバランスよく得点を重ねたイランがリズムをつかみかけていた。

フィールドゴール(FG)成功率はイランが64%に対し、日本も54%と高い数字を誇っていた。だが、京谷HCがにらんでいた「日本のディフェンスと、イランのオフェンスとの勝負」は、1Qではイランに軍配が上がったと言ってよかった。
日本のディフェンスシステムはイランのビックマンたちを苦しめた(左から鳥海、髙柗、赤石) | 男子日本代表、パリへの戦いに終止符も最後まで諦めない姿を披露|2024アジアオセアニアチャンピオンシップス | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

日本のディフェンスシステムはイランのビックマンたちを苦しめた(左から鳥海、髙柗、赤石)

3Q序盤にあった勝敗を分けた最大のポイント

一方、続く2Qでは日本が勝機を見出した。特にイランの攻撃を苦しめたのは、髙柗義伸(4.0)、香西、鳥海連志、赤石竜我(ともに2.5)、川原凜(1.5)のラインナップによる「フラット」と呼ばれるディフェンスシステムだ。ハーフライン付近から横一列になり、徐々にバックコートに下がっていくことで攻撃の時間を削ることが狙いのディフェンスだ。さらに終盤には、香西、鳥海、赤石に加えて古澤拓也(3.0)、丸山弘毅(2.5)が入ったミドルポインター5人によるラインナップが得意とするディフェンスシステム「フィストパワー」が機能。フロントコートで5人すべての動きを封じるという、究極のプレスディフェンスが、イランの攻撃のリズムを大きく崩した。

2Qのイランの得点がわずか2にとどまったことからも、いかに日本のディフェンスが効いていたかがわかる。そしてその間に日本は得点を重ね、26-25と逆転して試合を折り返した。

そして京谷HCが予選プールでも「勝敗を分けた時間帯だった」と語り、勝負のあやとされた3Q、流れを引き寄せた2Qのラインナップではなく、スタートの5人に戻す選択をした。その理由を京谷HCはこう語る。

「あのまま同じメンバーを出し続ければ、最も大事な試合終盤にひずみが出てくるだろうと。まずは一度選手たちを休ませなければいけないと思ったので、スタートのラインナップに戻しました。そこでなんとか耐え忍ぶ時間帯にできていれば、後半はまた違った展開になったかもしれないのですが……。やっぱりイランの高さ、そして『絶対に勝つ』という気迫が、日本よりも少し上回っていたのかもしれません」

ハイポインター陣による3連続得点でイランが再び勝ち越すと、京谷HCは序盤で2Qのラインナップに戻すことを決意。すると、やはり日本のプレスやフラットは効果的だった。イランにパスミスが増え、アウトサイドシュートの確率も下がっていった。しかし一方で日本のシュートもリングから嫌われ、2Qのような勢いは生まれなかった。結局、1点リードの状態から、3Q終了時には32-39と7点差に開いていた。

ただこの時点で、イランも完全に流れを引き寄せられていたわけではなかった。ターンオーバーは12を数え、ミスが目立っていた。まだまだ勝負の行方はわからない状態で最終Qに突入した。
途中出場ながら得意の3Pシュートで会場を沸かせた村上直広 | 男子日本代表、パリへの戦いに終止符も最後まで諦めない姿を披露|2024アジアオセアニアチャンピオンシップス | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

途中出場ながら得意の3Pシュートで会場を沸かせた村上直広

有終の美を飾り、力強く踏み出す次への一歩

すると4Qの序盤、鳥海が磨いてきたミドルシュート、さらにはスピードを生かしてドライブからのレイアップを決め、孤軍奮闘した。しかし、そのほかは日本に得点が生まれず、中盤も香西のミドルシュート1本のみ。その間、イランは何度も連続得点を挙げ、じりじりと引き離していった。

残り3分半を切った時点で、40-55。イランのベンチは早くも勝利を確信したかのように興奮した雰囲気に包まれ始めていた。

しかし日本は、最後まで諦めない姿勢であることをプレーで証明し続けた。それまでベンチを温め続け、2ケタのビハインドを負った状態でコートに送り出された村上直広(4.0)が気持ちをぶつけるかのように得意とする3ポイントシュートを鮮やかに決めてみせれば、その直後には鳥海も3ポイントを炸裂。そして日本の得点のラストを飾ったのは、東京パラリンピック以降、キャプテンとしてチームをけん引してきた川原だった。0度からミドルシュートを決めて一矢報いたキャプテンに、日本のベンチやスタンドで声援を送り続けた応援団から大歓声が起こった。

最後に日本はファウルゲームに一縷の望みをかけたが、結果的には48-63とリードを広げられての敗戦。試合終了のブザーと同時に、「2大会連続でのメダル獲得」を目標とした日本のパリへの戦いに終止符が打たれた。
京谷HCは試合後の選手12人にねぎらいの言葉をかけ、日本代表としての責任を伝えた | 男子日本代表、パリへの戦いに終止符も最後まで諦めない姿を披露|2024アジアオセアニアチャンピオンシップス | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

京谷HCは試合後の選手12人にねぎらいの言葉をかけ、日本代表としての責任を伝えた

しかし、大会はまだ終わってはいない。最終日となる20日には、3位決定戦で韓国との対戦が決まっている。3カ月前のアジアパラでは1勝1敗。そのアジパラを含めてここ10年間での戦績は、日本の6勝5敗。それだけに明日の日韓戦は、因縁のライバル同士、プライドをかけた戦いでもある。

試合後の円陣で、京谷HCはこう選手たちに檄を飛ばした。

「今は下を向いてはいけない。日本代表として最後までしっかりと戦う責任がある。そして明日の試合は次に向かうための第一歩。勝ってその一歩を踏み出そう」

この12人のメンバーで戦うことはもう二度とない可能性は高く、それだけに最後に有終の美を飾り、それぞれの“一歩"を踏み出すラストゲームとできるか。“魄繋"のチームスローガンに込めた思いをすべてコート上で体現し、チームの真価を発揮する一戦としたい。

(文・斎藤寿子/写真・湯谷夏子、村上智彦)
【車いすバスケットボール】
 一般のバスケットボールとほぼ同じルールで行われる。ただし「ダブルドリブル」はなく、2プッシュ(車いすを漕ぐこと)につき1回ドリブルをすればOK。
選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から1.0~4.5までの8クラスに分けられている。コート上の5人の持ち点の合計は14点以内に編成しなければならない。主に1.0、1.5、2.0の選手を「ローポインター」、2.5、3.0、3.5を「ミドルポインター」、4.0、4.5を「ハイポインター」と呼ぶ。
 国内では健常者の参加が可能で、持ち点は4.5。また天皇杯など男子の大会に女子選手が参加することも可能で、女子選手1人につきコート上の5人の持ち点の合計が1.5点加算される。
障がいが軽いハイポインターでも車いすのシートから臀部を離すことは許されず、座ったままの状態で一般のバスケと同じ高さ・距離でシュートを決めるのは至難の業だ。また、車いすを漕ぎながら、ドリブルをすることも容易ではなく、選手たちは日々のトレーニングによって高度な技術を習得している。
ジャンプはないが、ハイポインターが車いすの片輪を上げて高さを出す「ティルティング」という技がある。ゴール下の激しい攻防戦の中、ティルティングでシュートをねじ込むシーンは車いすバスケならではの見どころの一つだ。
男子日本代表、パリへの戦いに終止符も最後まで諦めない姿を披露|2024アジアオセアニアチャンピオンシップス | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア
男子日本代表、パリへの戦いに終止符も最後まで諦めない姿を披露|2024アジアオセアニアチャンピオンシップス | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア
男子日本代表、パリへの戦いに終止符も最後まで諦めない姿を披露|2024アジアオセアニアチャンピオンシップス | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア
男子日本代表、パリへの戦いに終止符も最後まで諦めない姿を披露|2024アジアオセアニアチャンピオンシップス | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア
男子日本代表、パリへの戦いに終止符も最後まで諦めない姿を披露|2024アジアオセアニアチャンピオンシップス | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア
男子日本代表、パリへの戦いに終止符も最後まで諦めない姿を披露|2024アジアオセアニアチャンピオンシップス | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア
男子日本代表、パリへの戦いに終止符も最後まで諦めない姿を披露|2024アジアオセアニアチャンピオンシップス | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア
男子日本代表、パリへの戦いに終止符も最後まで諦めない姿を披露|2024アジアオセアニアチャンピオンシップス | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア
男子日本代表、パリへの戦いに終止符も最後まで諦めない姿を披露|2024アジアオセアニアチャンピオンシップス | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

関連記事

最新記事