8月19日と20日の両日、「2023 ジャパンパラボッチャ競技大会」が、駒沢オリンピック公園総合運動場 屋内球技場で開催された。韓国代表6選手を招聘し、男女別個人戦が行われたなか、BC4男子ではボッチャ日本代表「火ノ玉JAPAN」の主将を務める内田峻介(大阪体育大)が初日からの2連勝で優勝。また、今年の日本選手権王者の廣瀬隆喜(西尾レントオール)と、東京パラリンピック金メダリストの杉村英孝(伊豆介護センター)が出場したBC2は、杉村が廣瀬との「東京パラメダリスト対決」を制し、優勝を果たした。
その他、各カテゴリーで、来年のパリ・パラリンピックに向けた熱戦が繰り広げられた。
ロングの強化に取り組んできた
今大会、一番盛り上がったのが、2日目に行われた「杉村対廣瀬」の“宿命の対決"だった。今年の日本選手権では軍配は廣瀬に上がり、10度目の栄冠を手にしている。
ウォームアップの時から張り詰めた空気が漂うなかで始まったこの試合、先手を取ったのは廣瀬だった。正確な投球を重ね、第1エンドは1対0でリードする。
すると第2エンド、廣瀬はロングで引き離しにかかる。1月の日本選手権では、杉村がロングに対応しきれなかった。しかし、この日の杉村は違った。「ロングの強化に取り組み、戦術も準備してきた」。互いのボールが密集した状態からジャックをはじき、有利な状況を作ると、3点を獲得。逆転に成功した。
これで一気に流れが変わったか、第3(3-0)、第4エンド(4-0)も、杉村がものにする。終わってみれば10対1の圧勝で、BC2の優勝を飾るとともに、日本選手権のリベンジを果たした。
もっとも、杉村はボッチャの第一人者らしく、勝つことだけでなく、「大一番」の試合内容にもこだわっていたようだ。
「(2人の対決を)楽しみにしていた人がいるのは意識していた。自分としては戦術的には地味ながら、面白い試合ができたと思うし、廣瀬選手がロビングを決めた時は会場が沸いていたので、ボッチャを楽しんでもらえたと感じている」
杉村と切磋琢磨している廣瀬にも、ただ勝負にこだわるのではなく、ボッチャの魅力を伝えたい、知名度を高めたいという思いがある。
「ボッチャは寄せるだけでなく、プッシュ、ヒット、ロビングなど多彩な技があることを、これからも自分のプレーで見せていきたい」
若き主将は修正能力の高さを発揮
「修正能力」の高さを発揮したのが、昨年の世界選手権の金メダリストで、今年の日本選手権では連覇を果たした内田だった。1日目は宮原陸人(あいおいニッセイ同和損害保険)に6対2で勝利も、本人いわく「ミスが多かった」。
前日の反省を踏まえて臨んだ2日目。藤井金太朗(三建設備工業)との対戦では、試合の中で修正してみせた。第2エンド、内田はロングに対応できず、1投目を外す。だが、2投目をジャックにピタリ。すぐにミスを取り戻すと、以後は相手につけ入る隙を与えなかった。
「修正するために大事にしているのが『間』です。流れが良くないと感じたら、そのまま投げるのではなく、いったん『間』を取り、悪い流れを断ち切るようにしています」
気持ちを切り替えた内田は、その後も主導権を譲らず、9対0で完勝。BC4男子の1位となった。
2日目は内田の21歳の誕生日でもあった。取材陣から祝福を受け、顔をほころばせた内田だったが、21歳の抱負を聞かれると、表情を引き締め、こう答えた。
「パリ・パラに向けての国際大会の準備を悔いが残らないようにやっていきたいです。それと、目標を定めて挑戦していきたい。対戦相手だけでなく、自分にも(どこまでできるか)挑戦していくつもりです」
内田は今年4月、杉村に代わって、ボッチャ日本代表の主将になった。「火ノ玉JAPAN」に若きリーダーが誕生したことで、代表チームの雰囲気も変わったようだ。ボッチャ日本代表の井上伸監督は「まだ杉村と廣瀬の両輪に支えてもらっているところはありますが、内田が主将になったことで、若い選手からの発信が増えてきている」と話す。
名実ともに日本代表の先頭に立つ内田。「パリ・パライヤー」での活躍も楽しみだ。
若手選手の台頭が底上げにつながる
今大会、杉村と廣瀬の「BC2の2トップ」と対戦したのが、初めて日本代表として参戦した吉見成生(西尾レントオール)だ。杉村には1対10、廣瀬には2対4で敗れたが、杉村は「緊張していた部分もあったと思うが、これからの大きな糧になったのでは」と言う。そして「(まだ20歳代の)吉見選手のような若手が伸びてくれば、BC2全体が底上げできる」とエールを送った。
一方、女子の新鋭では、BC2で16歳の高校1年生・北野奏羽(大阪府立金剛高)が出場。初日、2日目とも井上満里奈(埼玉ボッチャクラブ)と対戦し、1対3、 0対10で敗れたが、井上監督は「井上が国際大会の場に立てた経験は大きい」と見ている。東京大会では男女混合だった個人戦が、パリ・パラでは男女別に分かれて行われることになっており、女性選手の強化も急務となっている。
井上監督は今大会を日本選手権に次ぐ、国内最高峰の大会と位置づけている。
「何より大きいのは、日本選手権同様に数多くのお客さんの前でプレーができること。観客に見られていると重圧になるが、それは得難い機会であり、そこでパフォーマンスを発揮できれば、成長と自信を手に入れられるので」
大会2日目に開幕であと1年となったパリ・パラ(2024年8月28日に開幕予定)。大舞台を見据え、強化と育成が図られた実り多い大会であった。
(文:上原伸一)
【優勝者一覧】
BC1男女混合 長谷川岳(ウルトラボッチャマンズ)
BC2男子 杉村英孝(有限会社伊豆介護センター)
BC3男子 リー ハクス(チェンチョンナムドボッチャビジネスチーム)
BC4男子 内田峻介(大阪体育大学)
BC2女子 井上満里奈(埼玉ボッチャクラブ)
BC3女子 田中恵子(株式会社ゴーゴーカレーグループ)
【ボッチャ】
四肢麻痺など、障がいの重い選手が行うスポーツとして考案されたパラリンピック独自の競技。障がいの程度によってBC1、BC2、BC3、BC4にクラスが分かれて試合が行われる。12.5m×6mの大きさのコートを使用し、「ジャックボール」と呼ばれる白色の目標球に、どれだけボールを近づけられるかを競う。1エンド6球ずつ投げることができ、個人戦とペア戦は4エンド、1チーム3人で構成された団体戦は6エンドの合計点で勝敗が決まる。
障がいが重いクラスでは、自分自身でボールを投げたり転がしたりすることができない場合、補助具の使用が認められている。滑り台のような形をした「ランプ」を使用したり、頭の動きでボールを押し出したり引っかけて動かすことのできる「ヘッドポインタ」などを使用して投球する。また、アシスタントに補助具の角度や方向を調整してもらることも認められている。ただし、アシスタントが自由に動いたり、選手に話しかけることは禁止。コートを振り返ることもできないため、選手自身の実力が問われる。パラリンピックに出場するようなトップクラスの選手の技術は高く、ボールの勢いを利用して相手のボールをはじいたり、ボールの上に乗せたりすることも。自由自在にボールを操る選手のテクニックが見どころ。